夏休み編・58
そもそも言いたい文句は多い。
まずチームのパワーバランスがおかしい。
公平を期すために運でのチーム分けにしたが、
明らかにチームの総力で圧倒的に自分たちは負けている
ビルとビックはせめても分けるべきだ。
あの二つの壁は圧巻である。
それに美咲はもちろん、リトルもかなり動ける
対して至って一般的女子の能力の有希さん、
運動はできてもビーチバレーボールは初めてらしい吉沢さん、
サポートは一流だがアタックをやりたがらないミドルメイド......
こちらは言ってしまえば頼りずらい人材である。
それを相手にあちらのチームが勝ち誇るのは
如何なものかと思いたい
「パーチーム、マッチポイント~」
そんなことを考えながら、
またもや自分のミス。
もう脳内で責任転嫁してないとやってられない
「んん~!!」
遂にプンスカ怒って吉沢さんが足を踏み鳴らして近付いて来る。
他二人は勝敗に執着がないが、彼女は別だ
「ハルオ君! 怒っちゃうよ!」
「ご、ごめん......」
謝りながらも視線はお察しの通りである。
目の前で派手に弾むのだから仕方ない
「もう、後衛が苦手ならそう言わないと!」
「え、そういうわけじゃ――」
「おいで!」
手を掴まれ、前衛に駆り出される。
ネット越しではリトルがニヤニヤしている。
そしてしかめっ面の美咲がサーブを打つのだから、
威力は感情も上乗せして鋭いのが入って来る
それで勝負は決して当然だった。
正直、最後くらいは己のミスでなく
敵のファインプレーで終わって良かったとさえ安堵した
が、神様も現実も甘くはない。
「ナイス!」
有希さんの声が響く。
何事かと振り返るとギリギリでミドルが頑張って取ってしまった。
そしてトスされたボールはこちらに飛んで来る
「ハルオ君!」
やばい。
空振りもネットに捕まるわけにもいかない。
素晴らしい位置だ
失敗は許されない!
「ええい、ままよ!!」
飛び上がった、
力強く叩き込んだ。
直後、快感さえ覚える完璧なスパイクだと自分でも思った
だが、しかし
「フンッ!!」
ビルという筋肉の壁がニュッと現れた。
鍛え上げられた胸筋がボールをブロックした。
跳ね返った勢いそのままに、
顔面にヒットした
「ブベラッ!!」
背中から落ちる。
気絶癖が発動するところだった
「大丈夫!?」
吉沢さんを始めとして
駆け寄ってくるチームメンバー。
なんて優しいんだ......
顔には零れるものがあった。
きっと感涙であろう
「鼻血出てるよ!」
「え」
焦って拭うと汗でも涙でもなく、
血だった。
徐々に恥ずかしさが募っていく
「タイム~」
その後は思い出したくもない恥辱の限りを受けた。
女の子に囲まれて看病され、
鼻にティッシュなんか詰めちゃって、
日陰で体育座りして遠くから試合を続行している皆を
見ることしかできなかった。
退場する中、見てしまったリトルの嘲るような瞳は
見学中の自分に何度も向けられた。
またあの目だぁ......と何回思ったことか
そして試合は総員が奇数になってしまったので、
ミドルが審判をすることで3対3になると
それはそれは見応えのあるゲームになっていた。
つまり、自分は要らない子だったのである
白熱し、予定よりも長引いて遊ぶ彼らには
もはや自分の姿は映っていないだろう。
一慶の辛さを改めて思い知った気がする
遂には拗ねて、下を向いていると
いつの間にか波のさざめきによって午睡へといざなわれていた




