夏休み編・54
スタート直前、
割と重要なことを思い出す。
「そういえば審判は?」
「いらない。
どうせ私たちが圧倒的大差で勝つ。
不本意ではあるが」
「どんだけ俺と喜びを共有したくないんだよ......」
試合開始のホイッスルが鳴る。
誰が吹いたのか?
「よーし! サーブはナツからやっちゃうよ!」
あっちは、ほぼ使用人チームだ。
サーブくらいは優先してあげたのだろうか。
というよりかは前線二人の巨人が怖すぎる
なだらかな軌道を描いて入ってきた。
さほど対処は難しくない。
だが、連携ができるチームに限った話だ
「俺が取る!」
「いいや、アタシが!」
吸い寄せられるように自分と美咲は同じポイントに、
当然頭がごっつんこ。
両者が倒れた間に満を持してボールが落ちた
「Bチーム、1点~」
ミドルメイドの声だった。
よく見れば首からホイッスルを掛けている。
その笛の位置にはビキニにより生まれた谷間が......
頭の痛みを忘れるほど熱中した。
「ちょっと!!」
その熱がすぐ引くようなお怒りが飛んで来る。
「あの位置は俺がバックすれば取れたんだよ」
「前に少し動いて取れるアタシの方が適任でしょ!?」
「怒ることないだろ~?」
「なによ!」
子供のようにいがみ合う。
実際、幼少期は尻に敷かれていたので
いがみ合えるようになったという方が正しい
「二人とも仲よくしよう?
せっかく同じチームになれたんだから......」
有希さんという女神の仲裁によって、少しにやけて美咲から離れた。
直後後ろから砂を軽く投げられ、振り向くと
ニヤニヤするな、のジェスチャー。
妬いてるな、アイツ
増々、機嫌を悪くしそうだ。
「そーれ、もう一点!」
今度は自分のポジションから右の前にリトルメイド、
後ろに有希さんの陣形の方へ。
なぜ背の低い奴を前にしたのかは、当然
彼女のワガママである
しかし、言うだけあって俊敏に地面すれすれを拾った。
身長があれば余裕なのだろうが......
「いったぞ! マヌケ!」
相変わらず毒舌メイドに名指しされながら、
両手で飛んできた球を丁寧にトスした。
ただ素人のトスはタイミングが合わないためか、
ボールが弾む音がする割に高く飛ばない
「間抜けにしては良い位置だ」
そんな低めが彼女にはピッタリだったらしい。
笑ってしまう様な跳躍力でネット間際で叩きつけた。
低い位置で拾うのには巨体は向いておらず、
ビルが倒れ込んだのはボールが地に着いた後だった
「Aチーム、1点~」
「おお!」
これには感嘆の声を上げた。
「ナイストスだったよ~」
有希さんに褒められて口角が急上昇する。
振り返ったら美咲に助走をつけて殴られるくらいにはだらしない
顔をした
こうして当初の不安を他所に、
試合は盛り上がりを見せるのだった。




