夏休み編・53
「では、今日は最終日!
それぞれ好きな場所に赴くが良い!」
朝食、今朝の一言が終わるとそれぞれの組が話し合う声が聞こえる。
兄弟たちは森どころか今日で山を目指すとまで言っている。
美咲や吉沢さんは海に行くようだ。
この間に二人もそこそこ仲良くなってくれたようで何よりだ
問題は、自分だ。
付き合いの長い幼馴染同士で今は気まずさがある。
そしてもう一人は同室の奴......
「そうだぁ! おい、花山!
お前も陸派だろぉ!?
また色々教えてくれよ~」
「貴様らと一緒は癪だが、そうする他あるまい」
花山は淳の誘いもあって、山を選んだようだ。
美咲は海。
どっちを選択したものか
厳しい判断である。
苦悩して立ち尽くしていると太い腕が首に回される
「ヤマオ! まさか女子ばっかりの海で
一緒にキャッキャウフフする訳ねえよなぁ~?」
「え、ええと......」
「やめなよ、兄貴......
気にせず自分に素直になって選ぶといいよ。
うちの兄は泳げないから海とそれに女の子が怖くて、
陸を選んだだけだしさ」
「一慶! 余計なこと言うなよ!」
茶化してくる兄を弟が跳ねのけてくれた。
しかし、実際は異性に囲まれているというのも
楽しいことばかりではない
部屋にも戻らず、一人で辺りが静かになるまで
考え込んだ。
「うん、この景色を見て
選択は間違ってないって確信できた」
腰に手を当てて呟いた場所は、海だった。
やはり水着姿の彼女等と青海は美しい
「ボーっとしてないでこっちおいでよ~!」
吉沢さんからの明るい手招き。
応じる他あるまい
それにしても気になることが一つある。
「それで、何故あなたたちも?」
自分の横には、遊ぶ気満々の軽装なメイドリニティとビルがいた。
屈強な男とそれに負けず劣らずのビックメイドの並びは壮観である
「お嬢様のご厚意で今日は羽を伸ばしてこいと命じられたのでな」
「命令されて遊ぶのか......」
「命じられたからには本気だ。
せっかく人数もいる。
あちらさんのお姉さん方にも
参加してもらい、コレで楽しむ」
「ビーチボール?」
リトルメイドが指さしたそれを、
メイドビキニ姿のミドルメイドが大事そうに抱えている。
可愛い。
三人とも同じ様な恰好だが、リトルはちんちくりんだし
ビッグはパツパツでキツそうだ。
寡黙なスレンダー美人の水着姿でも筋肉があると圧倒されてしまう。
体格的にピッタリなミドルな彼女こそお似合いである
「これでお前をコテンパンにする。
それでリフレッシュする」
「そんな柔らかいのをぶつけられたって痒いだけだぜ?」
「そう思って、普通のバレーボールも持ってきた」
「ノリノリじゃねえか」
そんなこんなで始まったビーチバレー。
チーム分けは公平を期してグーとパーで別れるやつで決めた。
我がチームメンバーはリトルメイド・美咲・有希さん......
どうして、こうなった。
しかも息苦しいだけでなく、敵に明らかに強そうなのが二人もいる。
メイドに関してはよりにもよって、
味方になってしまって苛立っているのが
小さな背中から伝わって来る。
対照的に申し訳なさそうな有希さんは謝ってきた。
「足引っ張ったらごめんね?」
「だ、大丈夫ですよ」
ああ、辛い。
その眩しい程の美しさが傍にいることが、
でもある意味遠いことが辛い。
「足引っ張らないでよね」
「はい......」
ああ、怖い。
微妙な空気にピリピリした幼馴染が近くにいることが、
とっても怖い
到底連携が取れそうにないチームに肩身を狭くしつつ、
試合は始まった。




