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夏休み編・49

ゆっくりと歩いて行く。

警戒が歩を遅くする。

そんな時、ふと思い付く


「思ったんだけどさ、これもう走り抜けちゃえばいいんじゃない?」


「そうしたいけど......それはダメだよ」


「なんでぇ?」


「看板にそうしちゃ駄目って書いてあった」


天真爛漫でいて根が真面目である。

有希さんは絶対遵守であろうし、

吉沢さんならと甘えてみたが失敗だった。

割とちゃんとしている部分もある


「じゃあ、早歩きは?」


「うーん、それくらいは......」


「よし、それでいこう」


足並みを揃えていざ行かんという時、

阻止するかの如く事態は急変した。


「うぎゃああ!」


「え!? なに!?」


吉沢さんが急に悲鳴を上げた。

背後からの不意打ちに心臓が止まり掛ける


「脅かさないでよ!」


「だ、だって今首にひんやりしたものがッ!」


そう釈明する彼女を支援するように

自分にも同じ現象が起こる。

ヌメっとした感覚に首はすくみ、足はすくみ

背筋は凍る


その瞬間、ルールなど守る気はなくなる。


「うあああ!!」


叫びを上げて走り出す。

彼女も後を着いて来るだろう


そう振り返った瞬間、前から

衝撃が腹部を襲った


「ぐえっ!」


仰向けに倒れ、しばらく天を仰いだ。

程なくして吉沢さんが意地悪そうな顔で覗き込んできた


「ナツを置いて行こうとしたことと、

 走ったからバチが当たったね」


「ご、ごめん......」


背中を払ってもらって、

また自分の肩に手を置かれて変わらぬ順序で二人でスタート。

走らないように捕らえられているかのようだ


それにしても突如にして自分の疾走を阻害した、

透明の障害物は何だったのか。

壁ではなく棒か何かが思い切りボディを狙って飛んできたような......

一瞬、荒い呼吸を聞いたような......


本当の幽霊がいたりして。


「ねぇ......吉沢さんは幽霊とか信じる?」


「そんなこと今聞かないでよ~......」


「俺、さっきすっ転んだわけじゃなくて

 何かに当たって倒された感じだったよ」


「本当に?」


こっちが怖がらせようとしていると思われているようだ。

彼女も走れば分かってもらえるはずなのだが......


「ちょっと走ってみてよ」


「ダメだってば~」


「いいから、ほんの数メートルくらいでも――」


懇願するように後ろを振り向くと、

吉沢さんの背後に何かが見える。

ゆっくりと徐々に加速してくる


「ちゃんと前見た方がいいよ」


「いやだって後ろに......」


「そうやって驚かして走らせようたってナツは騙され――」


彼女も振り向く。

一度こっちを真顔で見てくる。

そして再び髪を振り乱してまた背後を一瞥。


「キャアアア!!」


刹那、首が折れるかと思うほどの衝撃で押される。

船の上で仲睦まじく前の譲り合いをしていた時とは

比べ物にならない真の力が我が身を押し進める


このままでは、いずれ出てくる前方の障害物と板挟みに遭う。

それだけは何としても防ぐためにこちらも全力で

道端に逃れた


勢いからはみ出して回転しながら横倒れになると

走り去る彼女の背中。

しかし、一向に止まることも阻まれることもなく

見えなくなっていく。

後ろをみると相変わらず小さい何かはこちらに迫って来る


もう近くに誰もいないので

遠慮のない泣き声で転びかけながら逃げ出した。

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