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夏休み編・48

そうして始まった本人が聞けば罵詈雑言の嵐となる、

花山のだらしなさ等の列挙。

しかし、


「アイツゲームばっかりして、風呂上がりで

 髪も拭かずにやりだすんだよ!?」


「そんなの喜んで髪整えてあげる自信があるよ!」


「歯磨きも自分でしようとしない赤ちゃんなんだよ!?」


「そんなのご機嫌に綺麗にしてあげる自信があるよ!」


強い。

彼女の世話あるいは介護適性はピカイチだ。

たった二人の下の兄弟を持つ者では決して勝てない


まるで兄弟の数がRPGでのレベルを表すようだ。

確かに五倍上の彼女が負けるわけがない


「あんなのを妹に持つのと10人の弟を持つのが

 良い勝負するくらいだよ?」


「どっちもまとめて愛せる自信がある!」


伝説の保育士にでもなれそうだ。

気圧されて笑うことしかできない


「は、ははは......そんな吉沢さんに好かれて

 花山も幸せだと思うよ」


「ほんとぉ!?」


「多分ね......ああ、それこそ

 俺にもし姉がいたなら吉沢さんみたいな人が一番いい」


それを聞くとピタッと彼女の歩みが止まった。

何か見つけたのかと隈なく辺りを再確認したが、

特に別条はない


または自分の発言に失礼があったかもしれないと

訪ねようとすると、吉沢さんは笑みを覗かせてくれた。


「実はさ、本当につい最近だけど思ったことがあるの。

 妹ばかり欲しいと思ってたナツが新たに必要とする存在......」


ゆっくりと歩み寄って来る。

自分の胸に彼女のおでこが当たりそうになるくらいの距離、

見上げてくる美しい瞳には満点の星空が映っている


「甘やかしたりすることが多い人生だったけど、

 ナツが甘えたいと思わせてくれる存在の人を」


「そ、それって......」


「お兄ちゃんって言えばいいのかな」


完全に目線を合わせて言われている。

これは間違いなく......!


「なーんて、人がいたらいいなぁって」


「......え?」


「あれ、どうしたのハルオ君。

 固まってたら二人きりのままだよ~

 それでもいいけど~」


吉沢さんは先に歩いて置き去りにしていこうとする。


「俺......もしや、からかわれた?」


自問自答を口に出してしばらくショートする、

悲しい男が闇夜で独り棒立ちをしていた。


思い返すとどこか気になるのはその美しい眼と笑みに陰りが見えたような......

からかうのにそんな表情にも演技をつけられるのはプロしかいない。

だとしても何故そんなことを


枝が落ちる音に正気に戻され、

やっとバディの背中に追い付いたのは

色々と不安になって走り出して汗だくになった後だった。


振り向かずにじっと立っているので、

間近にしてまさか吉沢さんに似た幽霊かと思ったが

ちゃんと足があった。

その前には看板を支える棒が見えた


「二人一列になって歩きましょうだって。

 小学校の登下校みたいだね」


にこやかな彼女に

もはや恐怖と垣間見えた悲哀はないようだ。

後者は見間違いだったのかもしれない、変に気を回すのも

空気を悪くするだけなのでいつもの調子で語りかける。


「じゃあ、お先にどうぞ」


「え、前に行けってこと?」


「吉沢さん大丈夫そうじゃん」


「やだよ~!」


反撃でからかうと背後に素早く回られて

肩を掴まれた。

位置は固定され、自分が前にならざるを得ない


「頑張って、お兄ちゃん?」


「むむ......」


そう呼ばれては男らしく先導する他あるまい。

しかし行く先は明らかに横から何か出て来そうな

小高い壁が如き並べられたツリーの群れ。


鬼が出るか蛇が出るか、

目の前に出るか後ろから来るか......


そういった緊迫感を考慮して

横一列を封じたようだ。


「よし、じゃあ行こう」


「うん......」


同じタイミングで生唾を飲み込み、

いざ肝試しの本番に二人で歩き出した

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