夏休み編・46
考えてみればどういった様式の肝試しだったとかを聞いていなかった。
そういったことを想い返し、緊張感を自分の中で出来るだけ作り、
熱くなる頭を冷却しようとするが
「ごめんね、くっついちゃって」
「い、いや大丈夫だよ!!」
柔らかボディが薄着からガンガン押し付けられていると言うのに
どうして冷静でいられようか、
無理である。
そもそも何故彼女はほぼ寝間着で来ているのか、
その姿で密着されていては添い寝しているのとそう変わらない
健全な暴力が左腕を襲う。
ソフトな感触に理性は消えかけ、
ライトを持つ右腕が震えだした
狼男のように叫んでしまいそうだ
本当に獣になってしまう
落ち着け、落ち着くのだ治雄よ。
猿じゃあないんだから、異性との密着くらいで
興奮するなんて、まだ中学生みたいじゃないか
俺はもう高校生だ。
そうは思っても体は正直で、
全身が夜の冷気ではどうしようもないくらいな甘美な眩暈が襲う
「や、やっぱり脅かし役の人とかがいるのかなぁ?」
「どうかな~......?」
会話の内容など入って来るわけがない。
早く終わって欲しいようなそうでもないような時間に
意識は漂い続けた
流石にこのままでは良くないので恐ろしいことでも
思い出そうとした。
恐怖が理性を呼び起こしてくれる
この状況を......そうだ、
美咲に見られたらどうだろうか。
何なら空想くらい彼女にチェーンソーレベルの
凶器を持たせてみたらどうだろう
そうしてみるとあら不思議、
熱に浮かれてムードのイイ暗い森が
見事、惨殺されそうな13日の金曜日の秘境に大変身。
アイス・バケツ・チャレンジでもしたかのように一気に身体が冷えた。
やったことないが。
「吉沢さんって怖がりなんだね。
それにしたってそんなに引っ付かれたら勘違いしちゃうなぁ」
「勘違いって?」
攻めの一手、
これで恥ずかしがって離れてくれると思ったが、
まさかの追求に体温がまたもや上昇し始める。
天然のカウンターがこんなにも凶悪だとは......
「ええっと、そのぉ......」
「なになに?
聞かせて聞かせて!」
わざとやっているのだろうか、
というくらいにはあざとい。
チェリーボーイの自分には到底勝てそうにない
「そういえば、吉沢さんって兄弟いるの?
ほ、ほらっ!
船で話した時、俺の兄弟についての話題で食いつきが良かったからさ!」
逃げた。
彼女を引き剥がすことは難しいと悟り、
互いに共通のもので注意を逸らした
「うん! たくさん弟がいるよ!」
これは広げやすい展開になってきた、と
内心喜んだ。
「何人いるの?」
「最近、10人になったよ」
「10!?」
バンザイするようなオーバーリアクションで腕も解放できた。
「驚きすぎだよ~」
そう言ってまた腕を絡めとられた。
逃れられない!
「だ、だってさ大家族だよ? 普通に考えて」
「え、ナツのうちって普通じゃないのかな?」
あなたが普通じゃないのよ、そんなに男を
無意識に堕とそうとして!
そう言ってやれたらどれだけいいことか。
こんなことを男友達にやっているのだろうか。
それはいけない。
いずれ巻き起こす悲劇をここで食い止めなくてはならない。
彼女を奪い合うことで生まれる悲しみまたは流血の可能性は
塵一つ残してはいけない
久しぶりに我が心は正義に燃えた。
「ゴホン......あ、あのさ吉沢さんに言っておきたいだけど――」
一時の幸せを享受し続けようという悪しき己の欲を抑え、
遂に矯正の説教を震える声でかまそうかという時、
「ウラメシヤァ!!」
「「ギャアアアア!!」」
吉沢さんに負けないくらいの情けない声で
叫んだ。
突如現れたビルは草木に忍ぶためのFPSでお馴染みの
ギリースーツを着込んでいたが、
一瞬本当にビックフットが出現したと思わせるほどの巨人に見えた
男らしさを見せられないどころか
自分から彼女に抱き着きながら逃げてしまっては、
その後もう離れる気も起きなかった




