夏休み編・43
「では、待ちに待った夜のイベントについて発表するぞ!」
何も知らずにたっぷり寝ていた花山は元気そうだ。
比べてこちらは目覚めが悪いというもの、
いつも通り皆リビングに集められた際に
美咲とは目も合わせられない。
ペアで何かするイベントだったりしたら
すぐにでも仮病で部屋に籠るとしよう
「夜の森で肝試しをするぞ!」
聞いた瞬間、咳払いを開始した。
なんというバッドタイミング
「おお、そいつは楽しそうだ!
なぁ一慶?」
「僕は驚かす方の役だろうけどね、あはは......」
「いーや、しっかり全員参加者となってもらう」
それを聞いて嬉しそうにしたのは糸田兄弟だけだ。
女性陣は昼でも怯えていたというのに加えて闇夜を歩くなど
言語道断だろう。
ここは弱者の味方の体を取って中止に追い込む路線に変え、
喉を傷めてまでした演技を放棄し、
立ち上がって花山の前に立ちはだかる
「おい待ってくれ、随分と呑気なこと言うじゃないか」
「え? なにがだ?」
「とぼけてるのか?
野生の生き物は人間と違って夜行性が多いんだぞ?
加えて訳の分からない部族がいるとか言ってたのに、
そんなことしたら危ないんじゃないか?」
吉沢さんが首をブンブンと縦に振った。
有希さんはいつも中立であるが、きっと心の中では賛同しているはずだ
「だ、大丈夫だろう~?
それくらい......」
「大丈夫なのはお前とたくましい男達だけだ。
俺はか弱い女子たちを危険に晒すことに賛成は出来んな」
「おい、ヤマオが好感度稼ごうとしてるぞ。
なんならたくましい男の中に自分も入れてるぞ、あれ」
「そういうこと言うもんじゃないよ、兄貴......!」
こちらの正論に花山はたじたじである。
しきりにどこかに目線を飛ばしている。
その先にはあまり見ることがなかったメイド達。
気配は消していてもしっかりお嬢様をいつでも見守っている
そして救援のシグナルをアイコンタクトで送ったようだ。
すると、リトルメイドがズンズンと歩いて来た
「げっ」
毒舌な彼女とは出来れば関わりたくない気持ちが声に出た。
花山を責めていることに物申すに違いない。
すごすごとまたソファーまで退いた。
しかし、憤慨の眼光でこちらを威圧するでもなく
お嬢様に代わって皆に語りかけ始めた
「えー、代理説明の者です。
ただいま、野生動物や不審な者に関する対処はどうするか、ということが
議題に上がりましたが、そちらはコース設定者が先ほど
確認したため問題はないとのことです。
よって、イベントは開始を決定致します」
それだけ言うと去って行った。
球審か何かのようだった
「ということだ!!」
何もしていない花山がドヤ顔をする。
乱闘騒ぎにしてやってもいいところだが、
ここは多くの目があるので憚られた
「じゃあ、ドキドキワクワクのくじ引きとする!」
背中にずっと何か隠し持っているなとは感じていたが、
抽選箱をテーブルに叩きつけた。
「同じマークが中側に描かれた二つ折りの紙が入っている。
全員引き終わってから、一斉に開けて
口々に叫んでもらおう、自分が選んだマークを」
特に捻りも無い運要素の組み分けにも思えるが、
強烈な違和感を覚えた。
何か企んでいるような影を花山の顔に見た
「では、時計回りで糸田の兄から――」
「待ってくれ、そいつを一番先に引かせては貰えないか?」
「え......」
明らかな動揺を見た。
一番乗りになれないことの不満を叫ぶ淳の声は
もう聞こえない。
奴は何か仕組んでいる。
運ゲーではなく推理ゲームが始まった




