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夏休み編・42

「やっと落ち着いたか、ガッツリスケベめ......」


「う~ん......」


何だかんだ言いつつも、

したいようにさせてくれるのが夢の住人だ。

もっと積極的な行為に及んだらどんな反応を見せるのだろう


ワキワキする手が彼女に触れる前に、

穏やかな声が聞こえた。


「懐かしいって言ってたけど、

 こういうことは逆にアタシがしてもらってたよね」


「......ん?」


気になる話題に手が止まる。


「なんの......ことだ?」


「膝枕とか、手繋いで連れて行って貰ったりとか

 全部アタシがしてもらってた。

 ほら、家族ぐるみで旅行に行った時とかさ、 

 停電か廊下の電気付け方が分からない時に傍には治雄しかいなかった。

 トイレに行きたいんだけど心細いから連れてってもらったの。

 その時とかくらいは恥ずかしくなりながら、手を繋いだりしてさ」


とっても昔にあったような話だ。

何故今になってそれが聞こえてくるのだろう。

森を歩く時、彼女とロクに話せなかったことを

後悔して思い出したのだろうか


「そう......だったけな」


「帰りの車とかでもアタシが治雄に寄りかかって寝ちゃったんだよね。

 きっとその時は重かったから、

 起きたらいつの間にか膝枕の状態で家に着いた気がするの。

 治雄も結局、寝ちゃってたよね」


「......うん」


あの時は互いに恥じ入ることのない関係だった。

大事な友達、いつでも会える楽しい存在。

顔を合わせるだけで笑顔になっていた


「その旅行を境にだったのかなぁ......

 一緒に遊んだりするどころか、会うことも減っていった気がする。

 それぞれ同性の友達と遊ぶようになって」


「かもな......」


「一番思い出に残ってて、一番楽しかった思い出で......

 一番後悔した思い出かもしれない。

 あの時にアタシが何かをしてしまったから、

 あるいはアタシが何もしなかったから、

 あの頃の関係を続けれらなかったんじゃないかって......」


「......!」


いつの間にか身体は動いていた。

彼女の肩を掴んだ。

目が合った。

悲しそうな笑みを浮かべていた


「そんなことない......美咲が悪いわけないじゃないか。

 ああなってしまったのは、今みたいになってしまったのは......」


言葉が出なかった。

どれも空しい慰めや下らない励ましにしかならないことしか

浮かばなかった。

仕方のないことだ、と割り切ることもできなかった


ただ、これは夢なんだ。


どんなに鮮明で現実に似ていても

これは自分が作り出した幻想。

なら彼女の語る言葉が一番に、

己の心の奥底の真意を伝えてくれている


夢でくらいあの頃のような素直さに戻ってもいい


「俺が何もしてあげられなかったんだよ。

 お前が俺を想い続けてくれている間、

 何も知らずに過ごしていた。

 避けてたわけでも嫌いになったわけでもない。

 歩み寄って一つ、聞けばいいことを。

 同じように笑い合えるように誘うことをしなかった、

 俺が悪いんだ......」


腕が震えた。

顔は向けてはいられなかった。

情けないことだ


「治雄......」


自分の手にを優しい体温が触れた。

かつてないほどに近くに彼女を感じた


気付けば、美咲は関わろうとしてくれていた。

望まぬ高校生活に入ってからずっと。

花山と知り合うずっと前から、

花山と知り合ってからは更に。


せめて夢の中でだけでも、

幼馴染というかけがえのない存在に

してあげられることはしてあげたい


頬に触れた。

彼女の顔だけは冷たかった


「何かしてあげられることが俺にあるか?」


「アタシは......」


一秒ごとにゆっくりと

それでいて近付いている。

かつてないほど近くにいた彼女と

もっと密着していく


密接に触れ合うことは時間の問題だった。

互いに目を瞑った



「ただいまー!!

 いやぁ、エリーちゃんの寝顔可愛かったよ!」


そこで現実に引き戻された。

というか夢が現実であることに今気付いた。


途端に磁石の極が同じになったかのように

弾け飛ぶように遠く離れた


「あれ、なんでお互い背中向け合ってるの?

 喧嘩でもした?」


「そ、そうよ! 早く出ていきなさい!」


「お、おう! 出て行ってやるよ!」



こうして黄昏時の幻の様な現実は終わった。

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