夏休み編・40
昼食も皆で囲んで食べていたが、一足先に早く自室に引き上げた花山。
やはり怪しげな行動に自分も急いで食べ終わると後を追った。
自分の部屋でもあるドアの前で立ち止まり、耳を澄ます
一人になった今なら何か行動に出ているかもしれない。
心音が邪魔をする中、必死に中の音を拾おうと
ピッタリ張り付くまでドアに身体を寄せた
しかし、特に聞こえない。
この時ばかりは防音対策が邪魔をした
どころか、このためにしていたのではないかと疑いを加速させ
不意を突くつもりで、勢いよくドアを開くと
静けさが広がった。
ゆっくりと奥へと入っていくと、そこには
「むにゃむにゃ......」
だらしなくへそまで出して爆睡する自堕落娘がいるだけだった。
驚かせるつもりで開けたドアの音もまるで気にならなかった様子だ。
コイツ自身休息を取りたくて引き上げたようなものである
やはり、考え過ぎだったのだろうか?
間抜けな寝顔は失笑してしまいそうになるくらいに無邪気だ。
そして悪いことやずる賢いことができそうには普段からの
行いからも到底予想がつきそうにない
「取り越し苦労か......」
溜め息を吐きながら呟いて自分のベットに倒れ込む。
横を向くと満足そうにしている寝顔。
狸寝入りだとか演技ではできないものだ
それでも数分間、その顔をじっと見つめていた。
無性に眺めていられた。
相手が無防備だから、と言えばそれまでだが
有希さんの様な魅力などまるでなくとも、
買うつもりもないのにペットショップで
ガラス越しに見える、眠っている小動物を見るかのようだった
目の前の小動物は寝返りに寝言のオマケが付いている。
見ていて飽きない
そんな酔狂なことをしていると、
食後の眠気が襲ってきた。
昨日は育児とも介護とも取れる行動をして力尽きたので
しっかりとした睡眠体勢で寝れなかった
布団に潜ると温かさが身体を包んだ。
余計な心配や疲れは捨てて、
いつの間にか花山と向き合う形で深い眠りへと落ちて行った。
どれだけ経っただろうか、
スマホのアラームも設定もしていなかったが
朝になったと錯覚するくらいに自然と起きた。
カーテンからオレンジの陽の光が差してきている
かすむ目を擦っていると、
断続的に小さく響く音があった。
頭を揺らすような脈動かと思いきや、
外から聞こえてくるようである
それがノックだと気付くのに数秒を要した
「ああ、ごめん......寝てた、どちら様?」
廊下の明かりが薄暗い部屋から出た男の目を射抜く。
目を押さえると覚えのある匂いが、
次いで声がした
「あ、お昼寝中だったんだ。
起こしてごめんね」
「ん、吉沢さん?」
明順応しきらない瞳にはラフな姿をした彼女が立っているように見える。
「どうしたの......?」
「えっと、まさかエリーちゃんも寝てる?」
「うーん......たぶん」
「ふーん......じゃあさ、少しの間でいいから交換しない?」
働かない脳では吉沢さんの提案が
よく分からなかった。
「ん~......何を?」
「ナツとハルオ君を!」
「ああ~......」
ダメだ。
昼寝は昼にするものだろうが、
この時間帯での寝起き後はすこぶる頭の調子が悪い。
ガッツリ寝る体勢にしたのがまずかった。
それにより、またもや睡魔が襲来して
意識の朦朧とさせたり、瞼を下に引っ張ってくる。
とりあえず返事を返さないわけにもいかず、適当に頷いた
「ホントに!? じゃあ、交代!
三人で楽しく遊ぶつもりだったけど、
寝てるんだったら話は別だからね!」
肩を掴まれ、クルッと位置が交代され
ドアがガチャリと閉められた
「......え?」
状況を把握してない寝坊助小僧が
廊下でしばらく突っ立つことになった




