夏休み編・39
「あのさぁ――」
「治雄って――」
全く同じタイミングで被ってしまった。
花山に対してといい、美咲は合気の達人なのか
「み、美咲から話していいよ」
「いや、別にそんな......」
更に微妙な空気が漂う。
良くしようとして悪化させてしまった。
見つめることも先を促すようで互いに目線は右往左往する。
何処かもどかしい
横目にチラリと見える幼馴染は改めて大人っぽくなったと感じる。
髪を掻き上げる仕草なんて昔の髪の短い男っぽい彼女からは
想像もつかない。
木漏れ日に照らされる美咲はいつも元気一杯ではしゃいでいた
思い出しかない。
今は陽の光をスポットライトにしているかのように綺麗に映っている
「おーい! 早く二人も来い!
兄弟たちがいたぞ~!」
そこで花山からの終了宣言、
二人になった時の対処法を得られずに終わった。
どころか目を離せば、何処か遠くに行ってしまいそうな
気が少しした。
現実的に考えれば近々にはないだろう
ただ、いつだったか
彼女からの熱烈な想いを受けた時、
確信したのはいずれ中途半端な関係でいることは
後悔を生むであろうということだ。
どの様な形であれ着実に成長していく遠い過去からの友人に、
自分はどこまで着いて行けるのだろう
三人の背中の側にきた。
何かを見下ろしているようだ
兄弟の姿が見当たらなかったのは彼らがなだらかな
段差の一つ下にいたためであった。
淳は何かを指している。
それをよく見るためだったのだ
「あれを見てみろよぉ!
なんか古臭い家があるぜ!」
「古臭いっていうか、何か原始的な家を
兄貴が見つけたらしくて着いて行ったらあそこにあったんです」
示す先には小高い丘に並ぶ、部族が住んでいるような
藁やらここでなら楽に取れそうな素材で作られた小屋らしきものが
いくつもある。
ここは無人島のはずなのに
「どうなってるか説明してもらおうじゃねえかキャプテン。
この島に俺達以外に人なんていないんじゃないのか?」
「......これに関しては不安を煽りたくなかったので
言いたくは無かったのだが、皆に見られては仕方ない」
花山が真剣な顔つきで瞼を閉ざす。
チャランポランが普段のコイツがすると、どこかわざとらしい
「実はこの島には少数民族がいるらしい。
どのような部族か、全く分からない奴らだ。
気配はあっても姿を見せないという不思議な存在だ。
が、安心して欲しい」
心配にさせるような前振りから
無い胸を張って花山は宣言した。
「きっと危害を加えてくるようなことは決してないだろう。
そう、絶対にだ。
例えそのような事態が起ころうとも我々には備えがある」
「......最初に変なのを書かせたのはこのためか?」
「それもある」
こちらの質問に含みのある言い方で済ましてきた。
二人きりとはえらい違いだ。
何を強キャラぶっているのだろうか
「まあ、何はともあれ君子危うきに近寄らず。
近付かない方が無難であろう!
さっ、引き返そう。
行き過ぎてはいけないラインも分かって貰えたことだろうし、
昨日からの疲れもあるだろう、諸君?
早めに休息を取って今夜のイベントと
最後の明日を全力に楽しもうではないか!」
そう締めると皆の背中を叩くようにして、
後退を促した。
誰もが後ろ髪を引かれる想いで振り返ってはいたが、
足を止める者はいなかった
しかし、
この山崎 治雄の心には引っ掛かるものがあった。
どこか、
あの丘の光景を、
自分達以外の人間の気配を、
敢えてちらつかせたかったようにしか思えない。
並んで熱く話し合う兄弟の間を割って、問いを投げかける
「先輩、本当にお腹壊したんですか?」
「ん? ああ、そうだな」
「トイレを探しにいったにしては、
随分と遠くまで来ましたね」
そこで兄弟は顔を見合わせた。
すると一慶が代弁した
「それが花山さんがトイレに適した場所があると示した方向が
丁度、あの光景が見える場所に行き着く方角だったんだよ」
「そうそう、偶然発見したんだぜ?」
二人に特に怪しい様子はない。
見てない間に口裏を合わせた様子も......
となると、やはりどこか
何か怪しくなってきた。
同室で見せる素顔も一つの仮面なのだろうか。
共に何かのキーワードを思い出しそうになった




