夏休み編・38
「一足先に休息所である川で男たちも待ってる、ドンドン行くぞ!」
「川がゴールじゃないのか......」
女性陣はだんまりのまま先へと進む。
川のせせらぎが聞こえてくる。
涼し気な空気が汗ばんだ身体を癒す
今更になって、周りの景色や響く動物や虫の鳴き声も
そんなに悪くないと思い始めた。
人は余裕が生まれて初めて自然を愛でることができるのだと
身を以て知った
視界は開け、
陽の光を反射して煌びやかな滝と川が待っていた。
そこそこの急流でレジャーとしても楽しめそうだが、
今のまま落っこちればただでは済まない箇所もある。
浅瀬で足を浸けると、ひんやりとして気持ちいい
「はぁ~、冷たくて熱が吹っ飛ぶねハルオ君!」
「澄み切った川だし、飲んじゃおうかなぁ」
相変わらず両サイドに位置する二人も上機嫌になってきた。
「一応、忠告しておくが原水はオススメしないぞ。
さっき兄弟の兄の方が飲んで、腹を壊してどこかに消えた。
それを追って弟もまだ帰ってこない」
傍にいた花山がキャプテンらしい注意をした。
美咲の両手の上のすくった水は元の水流に音を立てて戻った
有希さんは滝の勢いの風に吹かれながらも、
ずっと壮大な水の躍動を見つめていた。
そんな彼女を自分も眺める。
結局、戻ってきてしまった。
この距離感に
ただ、そこにやるせない気持ちは無く
目の前の光景のような爽やかな気分だ。
ジメジメとした服の感覚も乾いてなくなってきた
「では、そろそろ行くか!
にしても奴ら遅いなぁ......どこまで行ったんだ?」
花山にしては珍しく他人を心配するかのような感じで呟く。
言われてみれば川に着いてから二人の姿を見ていない
「まあ、進行方向と同じことだし探しがてら進むとしよう」
キャプテンの指示通り、
荷物をまとめると5人で再スタートしたのであった。
歩いて行くこと10分ほど、
花山の現地解説ガイドは好調のまま
新たに吉沢さんと有希さんの二人を虜にして、
先を歩いて行く。
その後ろ姿を美咲と並んで見ていた
「アイツってよく分からない奴よね。
良いご身分のくせして虫嫌いどころか、
一番サバイバル適性があるなんて」
「リスペクトするべき特長が今回知れて良かったじゃないか」
「まっさかぁ~、あんな奴に尊敬の念を抱くなんて絶っ対にありえない」
過剰に花山を敵視する美咲に
笑いかけてやるのだった。
「何が可笑しいのよ」
「だって、本当にライバル視してるんだなぁって」
「当然じゃない、アンタを取り合う対決はずっと続いてるんだから」
ストレートに恥ずかし気もなく言って来るので、
取り合われる対象である本人として続く言葉を失ってしまう。
久しぶりに二人になってみると、気まずさを感じるのだった
「暑いな......」
「......そうね」
お互いに何か切り出しづらい。
ジャングルのBGM担当の喧しい動物たちの鳴き声も
この時ばかりに何故か控えめだ
アイツと二人の部屋でこういう空気になったことは考えれば
一度もない。
丁度いい、距離感なのだろう。
というよりか、いつも花山から近付いて来る距離が近いので
それに慣れ親しんでいた
美咲とはそういう甘え方ができない。
二人になると幼馴染は露骨に好意を見せて来ない。
普段とギャップがあって接しづらいのは当然だ。
しばらく会ってない昔の友人と再会して見ると
感じが変わっていて、親しき中にも沈黙あり、という
状態になっている
だからといって、黙っているのは息苦しい。
蒸し暑い環境もあって尚更だ。
意を決して口を開くことにした




