夏休み編・37
「さあ! 行くぞぉ!」
女子どころか男子もげんなりとする中、
元気の声を上げたのは自称キャプテン花山だ。
しかし今回ばかりは奴をキャプテンと仰がざる得ない。
なんせ一番森の中では強い者だ
最初の警告もあってビクつくことの多い女性陣、
今日は美咲と出来るだけ行動を共にすることは決めていたが
自然と吉沢さんや有希さんまで傍に来て団子状態で進んでいる。
ちょっと嬉しい
「そ、そんな密集しなくてもお化けじゃないんだから大丈夫だよ」
そう勇気づけるような言葉に返事もなく、
いざという時は虫除けをやらせる気なのだなと悟った。
比べて慣れてきた兄弟はキャプテンの側で元気そうである。
何故か花山は探検隊の博士ばりに虫やら花やらに詳しいようで
解説を交えて、ガイドらしく二人を楽しませている。
前方と後方ではまるで違う空気が漂っていた
こちらは戦慄しながらも進み、
あちらは学びながらエンジョイしている。
この差はなんだろう
「ちょ、ちょっと治雄......
あんまり早く行かないでよ......」
右手に美咲、
「離れないでね、ハルオ君......」
左腕にしがみついてくる吉沢さん、
「......」
後方から背中に手を置いて着いて来る有希さん。
反対に自分が守られているような陣形で進む
このまま何もなければ幸せな空間でいれたが、
神様はそこまで優しくない。
試練をお与えになるのだ
「「キャアアアア!!」」
パニックホラー主演女優賞間違いなしの叫びを上げたのは
両サイドの二人だ。
目の前に何か落ちてきたと思ったら蛇だ
それよりも背中からならまだしも、耳のすぐ両側でシャウトを喰らっては
もう絶叫しか聞こえず、鼓膜が破かれそうだ
それも両方から逃げるように押されて動けない。
圧迫に苦しい呻きを上げても、必死な二人には分からない
「あ、有希さん......!
後ろから俺を押してください!」
「え、いいの......?」
「蛇にやられる前にスクラップになっちゃう!」
震える腕で精一杯の力を背に受ける。
その頑張りに萌える余裕もなく、ズボッと拘束から逃れると
蛇とのご対面だ
「皆、下がって!!」
威勢の良い声で言ってみたい台詞ベスト100に入る
一つは言えたが、足が内股になって腰が引ける。
武器も無しにどうしろと言うんだ
蛇はちろちろと舌を出している。
威嚇のつもりだろうか、テレビで見る分には可愛いが
いつ襲い掛かってもおかしくない警告かもしれないと思うと
お漏らしでちろちろしてしまいそうだ
「は、早くやっつけて!」
しかもこうという時に限って美咲から無責任な野次と催促。
アイツを差し出して許しを請うという新たな選択肢が脳内に生まれた
冗談はさておき、
目線を合わせつつも慎重にリュックサックを前に抱えて
中をノールックで探る。
こういう時、野生の生き物と目線を外してはいけないと習った気がする
今になってそもそも目を合わせてはいけない、という情報も
あった気がして手汗で掴むものが滑りながらも
一応、武器を探り当てた
「ふんっ!!」
警棒が如き、振ると力強く刀身が伸びた。
その武器の名は、
「お、折りたたみ傘ッ!?」
意外、それは有希さんの紹介に預かったように傘であった。
正確にはこれくらいしかリーチを伸ばせるものがなかった。
「あんなのでやっつけられるの......?」
「で、でもハルオ君を信じるしかないよ美咲ちゃん!」
吉沢さんのプレッシャーを授かりながらも
いざ、尋常に
勝負が始まる
かと思えたが、上空からまたもや影が。
敵か、味方か、
シルエットは猿のような構えである
ソイツは蛇の上に覆いかぶさり、
蛇の首を地面に押さえつけた
「うん、アオダイショウだな。
川で泳がせてみるか」
目の前にはターザンのような恰好な女の子が。
「危なかったなって、どうした?
四人ともそんな目で見て?」
「薫......いつそれに着替えたの?」
「ああ! 元々中に着ていたんだ!
ハルたちが心配でターザン方式でやってきたんだ。
私は恰好から入る主義でな」
最初に兵隊のような迷彩服に、
顔にまでドーランを塗る徹底ぶりだったが
遂には森の番人になってしまった。
コイツの属性が分からなくなってきた




