夏休み編・36
その後も事情聴取をしたが、
何てことはない稚拙な口約束を交わしていたことが判明しただけだった。
「つまりは糸田兄弟と美咲は密航してた。
それで美咲の方にはペナルティとして俺と花山の接触に腹を立てないことを
この島での生活中は約束させた、と」
「で、コイツはやりすぎたわけよ!
同室だなんて許せない!!」
「まあ、良いではないか良いではないか」
調子に乗った女は幼馴染によって首をガタガタにされた。
止めるのが遅ければ一生、赤ちゃんのように首がすわらないところだ
「美咲はすぐに手を出すんじゃない、お姉さんでしょ!?」
「体格だけで見たらね、でもそいつは見た目だけで
歴とした同学年だから多少の戯れは当然よ」
「ゴリラに撫でられるだけでも無事な人間なんていないよなぁ?
ハル?」
守られていると尚更調子づく阿呆のせいで代わりに叩かれた。
本当に力強くなってきて手がつけられない。
そこでノックが響く
「どうかしたの~?
もう、皆朝食の席に着いてるよ~?」
まとまりのない団体の唯一の良心である有希さんが呼びに来てくれた。
「すぐ行きます!」
元気に返事を返すと、
問題児二人に向き直った。
「いいか、俺達三人の旅行じゃあないんだぞ?
喧嘩する子は嫌いだから、分かった?」
「「わかった!!」」
声の張りだけはいつも互角だ。
意気もピッタリ、ただしいつもそれを合図に真似するなと
取っ組み合う
「やめろって言ったばかりだろ!」
食事の席でも互いの視線が卓上で火花を散らすのだった。
花山は首が曲がったままである
「ねえ、今日はどこに行くのかなエリーちゃん?」
「気安く呼ぶなと言っておろう、今は機嫌が悪いんだ。
答えてあげないもん」
「そう言わずに教えてくれよぉ。
俺だって気になってんだ」
「貴様はどこへ行ってもするのは砂いじりだろうに」
強烈な一言に淳がシュンとしてしまった。
ますます空気が悪くなる。
すかさず、質問者たちの加勢をする
「また海ってわけじゃないんだろ?」
「うむ、今日は森か行けたら山だな」
「すると最終日の三日目は?」
「自由行動だな、陸も海も一通り皆で行って
好きな方を最後に選ぶという感じだ」
無難なプランに面倒が起こりそうな予感もなく、
波乱が起こりそうな三日間と踏んでいたが
ほっと胸を撫で下ろした
「あ、ちなみに今日のメインは夜だからな!
イベントがあるので寝過ごしたりしないように!」
途端に不安になってきた。
何を予定していやがる
「イベントって何よ」
「それは夕陽が沈んでからのお楽しみ......っておい、
貴様だけに意地悪してるわけじゃないんだから怒りは鎮めよ」
口実ができれば即座に花山に制裁をくわえたがる美咲にも困ったものだ。
日中は幼馴染の機嫌取りに時間を割かれることが決定した
「皆の者! ここは剥き出しの自然!
昨日の海のように軽装で来ると、たっぷり植物や虫の猛威を
思い知ることになるぞ!
心して準備をしてくるように!!」
解散の一言は不穏を含み、
女性陣には露骨に緊張が走った。
美咲も例外ではない。
ちなみに、花山と部屋に戻ってから
「虫とかお嬢様身分のお前が大丈夫なのかよ」
と聞くと、
「ん? 食べれない虫も嫌いじゃないぞ?」
という逞しくワイルドなコメントが返ってきた。
虫に関しては誰よりも強いのではなかろうか。
花山無双が始まりそうだ




