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夏休み編・33

「そういやお前って不思議な名前してるよな」


「!!」


「エリーの部分に何か意味とかあるのか?」


髪が触覚のようにピンとなりそうな勢いで

姿勢が良くなった。

口角をピクピクさせてこちらを振り向く。

喜びを抑えているのだろうか


「な、なんでそんなことを?」


「えっと、なんとなく」


有希さんの意図を汲むなら、

ここは言うべきではないと感じた。

すると下を向いた花山が微振動し始めた


「どうした?」


「よ、よ......」


「よ?」


「よくぞ、聞いてくれた!!」


頭突きでもする気だったのかと思わせるような速度で

迫って顔を上げてきた。

少女漫画の登場人物レベルで目がキラキラ輝いている


「お、おう」


「それは、だな!」


「うん」


「その理由は、だな!」


やたらタメを作って来るので

どんなものかと思えば、


「ハルから呼んでもらうための特別な名前だ!」


「......ほーん」


「薫は親友用で、エリーは恋人用なのだ!」


微妙なリアクションしかしてあげられなかった。


「だから、これから呼んでくれ!

 今、呼んで!」


「うーん......」


「ほらほら!」


有希さんに名前を呼んでもらうのをせがむ時も、

こんなにがっつくように見られていたのだろうか。

そう思うと恥ずかしい


「呼んであげない」


「ええ! なんで......」


「恋仲じゃないし......」


「そこを何とか!」


散々ごねられたが、結局いつも通りということになった。

特別な時に呼んでやると口約束することで黙らせた。

適当な時にでも使ってしまおう


その後もワイワイとゲームを進めていったが、

気付けば深夜。

夜更かしをしない主義にとっては瞼が重くなる時間帯


「そろそろ中断しないか......って」


言うまでもなく花山はもう寝ていた。

こちらの肩に頭を預けてスヤスヤと夢の中のご様子。

それにまるで気付かないとは、自分もかなり

寝ぼけていたらしい


仕方なく、担いでベッドに寝かせてやろうとすると

眠って完全に脱力しきった人間を移動させようということが

難儀であることを思い出す。

弟がよく寝る子で、やたらめったら目を離すと

外出先などで寝ていることが多く、

おんぶするにも抱っこするにも困ったものだ


今回は他人で、それも腐っても女子だ。

雑に脇とかに手を入れることも出来ず、

四苦八苦しながら持ちやすい運び方を模索した。

せっかく気持ちよく眠れそうな微睡みも吹っ飛びそうな苦労である


最終的にはお姫様抱っこで花山専用の寝床へ。

肩まで布団を掛けてやると、安堵の溜め息と共に

強烈な睡魔が襲ってくる


そのままでは添い寝になってしまう。

電気も消さず、自分のベッドまでたどり着くと

そこで力尽きた。



おかげで何も羽織らずに寝たことにより、

体の節々が冷えてしまった。


寝坊助の花山を放って置いて、

朝風呂をすると温かい浴槽の中で二度寝してしまい、

ドアの外からする大きな声のおかげで起きることができた

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