夏休み編・32
「ぐぬぬ......」
「やり込んでそうで、さてはエンジョイ勢か?
お嬢様は~?」
「う、うるさいっ!」
花山が負けては新たな対戦ゲームをやること4つ目。
形勢はまたもやこちらに傾いている。
前半は経験がリードするが、
所詮慣れてしまえば接戦というプレッシャーに弱い、
お嬢は逆転負けを続けるのだった
「ま、待ってくれ!」
「勝負に待ったは無しだ!」
「ぐあああ!!」
「よっしゃあ!」
防音対策もバッチリの部屋だと隣の奴に負けないくらい
叫べるのだった。
先に知って置いて良かった。
でなければ、いつものように花山の口を抑えなければならない
「むむ、やはり対戦ゲームなど下らん!」
「負けたら罰ゲームっていうルールは?」
「全部で5番勝負だったが、これにて試合終了!
つまり、無効!」
「ええ~、四回何か命じて良い権利があるんじゃないのか?」
当然の権利を主張すると、花山はほんのり顔を
赤らめて語った。
「そ、そこまで言うなら......何か私にさせたいことが
あるのか?」
完全に際どい指令を出されると勘違いしている
幼女体型さんに腹が立ったので、
「冷蔵庫からジュース持ってこい」
「......」
ガッカリさせてやることにした。
トボトボと歩いて元気なくドリンクを手渡してきた
「思ってたのと違う......」
「心配すんな、まだ三回あるんだから」
「おっ、そうか!
では何を――」
「我が三回の権利を以て、命ずる!!
一つ! 物を散らかさないでちゃんと自分の物は自分で片付けること!
二つ! 夜更かししないで駄々をこねずに、自分から寝床に入る事!
三つ! とにかく俺に迷惑を掛けないように心がける!
以上!」
言葉で何かを返すことはせず、ションボリとして
次のソフトをハードに入れ始めた。
「で、まだやるのかよ」
「今度は対戦ゲームじゃないやい」
「じゃあ、協力ゲーム?」
「それは時間が掛かるから、夜更かししてしまう」
チラッと時刻を確認してそう言った。
案外、聞き分けがよくて不意にムスッとした顔が
可愛いらしいだなんて思ってしまった。
結局、ペットに向ける愛玩的な感情なのかもしれないが
「今、失礼なことを想われた気がする!」
「どんだけ第六感鋭いんだよ」
そうして、起動した画面から聞こえてくるのは
切ないようで凛としたメロディーに、美しい歌声。
映像には美少女とのメモリーが次々に映し出されていく
「......恋愛ゲーム?」
「そうだ! これならゲームが苦手そうなアキとも
出来そうだと思ってな!」
「そもそも一人プレイじゃね?」
「こういうシナリオゲームは共に楽しめるものだ!
たぶん」
コイツの多分には何もかもが収容できそうだ。
そんなこんなで最初はあまり乗り気ではない感じで
隣で見ていたが、段々と引き込まれていく
「おい、今の!
チラッとしか出なかったけどさっきの子良くないか?」
「ああいう清楚系が好きなのか?
少し、アキに似ていたな」
「げほっ」
無意識な心の傷を抉る攻撃に肺をやられた。
しかし、なんとか立て直した。
全然気にしてなんかないんだからね!
「私はこの子の方が好きかもな~」
「金持ち、高慢ちきでロリっ子......お前じゃねえか」
「似ている性格って好きにならないか?」
「体格とかもだろ、どう見ても」
進めて行くとなかなか、
ああだこうだと議論が盛り上がる。
ただ、急に思いつくことがあった
「そもそも冷静に考えたら美少年攻略じゃなくて、
美少女攻略ゲームをアキさんとやるつもりだったのか?」
「結構、アキも可愛い女の子が好きらしいからな......」
「マジで!?」
「初恋がどうたらこうたら言ってたような......
あ、選択をミスってしまった。
何で明らかにこんな酷いこと女の子に言えるわけないだろって
選択肢が用意されてるんだろうなぁ、ハルよ」
もしかしたら自分は最初のショックで打ちのめされた余り、
重要なことを聞き逃してしまったのかもしれない。
しかし、それこそ女の子が好きなら余計に聞き返すことはできない。
どうにしろ、少し安心する自分がいた。
最も夢への可能性が0になるわけだが、もう捨てたことだ
「お、やっと名前選択の時が来たぞ!
共に決めようではないか! 二人で決めて行くのだからな......
この主人公のことは」
「なにちょっと、赤ちゃんの名前決めみたいな雰囲気出してんだよ」
「え、そんなこと思ってないが」
「......」
真顔で否定されると少し恥ずかしくなった。
なんとか誤魔化そうと、急にアキさんのことと名前のことで
思い出した、
あることを話題に出すのであった




