夏休み編・31
「ふぅ~......」
頭を拭きながら出ると、長い髪を濡れたままにして水滴を垂らしながらも
テレビゲームに夢中になっている花山の姿があった。
「おいおい、女の子なんだから
足跡残すみたいに水垂らしてくなよ~......」
「ん~?」
相変わらずゲームをすると何も聞こえていないようだ。
水滴を拭き終えると、タオルとドライヤーをブラシを持って
頭を乾かしてやることにした
「お~、助かる~」
「やれやれ......」
「いつもはメイドにやらせるものでな~」
「自分でそれくらいやりなさいっての」
女の子の髪の手入れは久しぶりであったが、
体が覚えているもので思い出すように整えて行く
「上手いものだな~、この時のために練習を?」
「マネキン相手に家でやるってか?
そんなわけないだろ」
「そういえば、妹がおったなハルには」
「そうそう、母親に面倒だから押し付けられてたわけ。
今じゃ髪に触れようものなら激怒されそうだけど」
すっかり大人びてしまった妹は兄に対して冷たいものだ。
長らく触れ合うことはない。
昔はあっちからベッタリだったのだから、
急に寂しくなる
そんなことを考えると、目の前の女は昔の妹みたいなものだ。
コイツからも急に冷めた態度を取られたら寂しくなるのだろうか
「ん? 今、ハルから親しみを込めた目線を送られた気がする!」
「......妹ってよりかはペット?」
「人間じゃい!」
「はい、終わりっと。
いつまでもやってないで歯磨きとかしろよ」
言っても聞かないだろうが、
とりあえず言い置いて洗面所に立った。
少し顔色は回復したようだ
すると、またドタドタと走って来る花山。
「ちゃんと終わらせたぞ、一人用は!」
「偉い、偉い......ふぁ~、じゃあおやすみ」
その場を出ようとすると、自分の袖を引っ張ってきた
「あ~ん」
「なにやってんだ?」
口を指して歯ブラシを突き出してくる。
どこまで甘えてくるんだコイツは
「見なかったことにしといてやる......」
「ケチ~」
流石に妹の歯を磨いてやったのは、幼少時代だ。
そこまでやるのは、もはや介護である。
そうして就寝体勢に入って、足先も温まってきたところで
またもや元気な足音がやってくる
「こらこら、寝るなぁ!
まだ夜は始まったばかりだぞ!
ゲームやろうぞ~」
「眠いって言ってるだろ......」
「ほらほら、夜這いしてしまうぞ~」
「入って来るなよ~......」
ゴソゴソと侵入を許してしまった。
首に腕を絡みつかせてくる
「むふふ、私が熱烈なアタックをしに行って以来だな。
二人で寝るのは」
「嫌って言ってるのが分からないか?」
「じゃあ、ゲームしよ」
「......分かったよ」
言い争いも取っ組み合いも学校ではやる気になるが、
ここではする気にもならない。
重要なのは場所ではなく、時間帯だ
自分はどうやら昼型の人間のようで、
夜になると途端に気力が無くなる。
徹夜など絶対無理な体質だ
「さあ、こんなお布団は取っ払います!」
「ホンットに、お前を彼女の元にやらなくて良かった」
「アキにはこんなことしないぞ!
たぶん」
「分かったから、言い出しっぺなんだしゲームの準備くらいしろ」
その時の動きと用意だけは迅速だった。
悔しいが、つい笑ってしまった




