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夏休み編・28

「船でも話しかけたけど......

 そういえば何であの時倒れたの?」


「えっと、過労です」


真顔で嘘をつけるまで冷静でいられるようになった。

付いた嘘の内容を既に思い出せないけれど


「ストレスや寝不足ってこと?」


「あ、そんな感じですね」


「気を付けてね、あなた一人の身体じゃないんだから」


一瞬、告白じみたメッセージに錯覚して危ないところであったが

花山からの好意を汲んだ発言だろうとギリギリで判断できた。


「薫は本当に山崎君のことが大好きなんだから」


ほら、やっぱり


「彼女、本当にあなたのことを話す時幸せそうな顔をするの。

 元々可愛い顔してるけど更に輝くんだから」


吉沢さんもそうだが、花山は同性相手にはマスコット的愛着を

持たれやすいようだ。


「引き立つのよね、美しさが。

 やっぱり恋っていいよね」


マスコット的愛着ではなかった。

美しい、と彼女は称した。

あっさり予測は打ち砕かれた


「別にアイツとは何もないけど......

 そんなノロケみたいな話の相手をさせてしまってすみません」


保護者の気分で頭を下げると、

快く角田さんから許しを頂いた。


「楽しく聞かせてもらってるよ。

 私も恋愛をしてるように思えて、純粋に共感し合えたから

 仲良くなれたと思う」


そう語る彼女の目はどこか遠くを見つめていた。

視線の先は空と海。

水平線の終わりを探しているかのよう


そんな横顔を自分も永遠に眺め続けられる気がした


「あ、そういえば薫から聞いてる?」


角田さんの思い付きで

安らぎの静寂は簡単に消失した。


「なにがです?」


「名前のこと」


具体的に言ってもらっても心当たりがなく

首を傾げた。

それを見ると彼女はクスッと笑った


「花山・エリー・薫って名前。

 彼女なりに日本風にしたみたいだけど、

 戸籍上はやっぱりミドルネームってものが

 外国と同じようには認められなくて、

 あの子が口頭で名乗ってるだけなの」


「へぇ......」


かなりの時間共にいたが、それは知らなかった。

花山についての新情報とは何とも新鮮であった


「だから正式は花山 薫ってわけね。

 でも彼女はこれが気に入らなかった」


「なんで?」


「元々のミドルネームの存在理由って色々あるけど、

 薫の場合は他人と名前が被らないためなんだって。

 唯一無二の部分が欲しかったらしいわ」


「ふ~ん......」


「そして、エリーという名称は......」


ここで彼女はタメを作ってきた。

CMを入れるためのMCさながらの話術だ


「な、なんなんですか?」


「......フフッ」


「え?」


含み笑いから我慢できずに

彼女にしては豪快に笑い始めた。

自然とこちらもつられて笑ってしまった。

何も可笑しくはないけど


「あはは...ふぅ、ごめん凄く教えたいけど

 でも、こればっかりはやっぱり薫から聞いた方がいいはず。

 きっと喜んで教えてくれるから」


「そうなんですね......」


「ちょっと釈然としないよね......

 そうだ、私たちの呼び方とか代わりになるか分からないけど

 変えてみる?」


「ええッッ!?」


えげつない大声を出して驚かせてしまった。

こんなに驚いたことはないというほど、

今にも痙攣を起こしてしまわれそうだ


「ぜ、ぜひっ! お願いします!!」


「そんなに喜ばれると思ってなかったよ、

 まだドキドキしてる」


「はい、俺もです」


「なんで君もなの?」


冗談交じりに聞かれた感じで良かった。

職質を受けるような深刻なムードであれば、

それこそ告白じみた理由を打ち明けねばならぬとこだ


「私のこと、どう呼びたい?」


「え、ええ~?」


これ以上ないほどのデレデレが出た。

まさに至福の時が来たことを悟り、

細胞レベルで喜んでいた。



この幸福の折れ線グラフの頂点の先が

ジェットコースターの醍醐味の部分になることも知らずに

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