夏休み編・27
女子との接触の抵抗を、
引っ付き虫の花山と美咲のせいで失っていてためか、
思わずの行動で憧れの人に対してとんだ無礼を働いてしまった
「ご、ごめんなさい!」
「だ、大丈夫だから、顔を上げて」
すぐさま手を放して土下座をする途中で止められた。
土下座など彼女の前なら熱い砂の上でもおでこを擦りつけてできそうな
勢いであった
「びっくりしちゃった。
割と山崎君って女の子に慣れてるんだね」
「ああ、そんな恐れ多い......」
頭の中では混乱と絶望が渦巻いていた。
こんな見た目で軽い男だと思われたかもしれないだとか、
心では罵倒されまくってて何なら声に出して欲しいだとか、
割と、という部分に地味に傷付いていたりと脳内は大忙しだ
「どうかしたの?
手に何か付いてた......とか、
そんな訳ないよね」
彼女は笑顔だが怒っているのか、
本当に楽しく感じているかは分からない。
目がグルグルしそうだ。
今すぐ故意にでも目を回せば、
気絶癖がある自分なら倒れ逃げができるかもしれない
ただ、それは好機から逃げることにもなる
「す、少しお話しません......か?」
船上でハッキリ言えなかったことが、
今言えた。
しかし、承認されるとは限らない。
だってそんな......
「うん、もちろん」
上手くいくわけ......
「とりあえず、座ろうか」
そのまま硬直して突っ立つ自分と、
座る彼女。
精一杯の一言を口から出すだけで気力を使い切ってしまい、
弁慶の立ち往生となった
「山崎君?
山崎 治雄く~ん?」
「八ッ!!」
ショートした電気回路が彼女が自分の苗字だけでなく
名前まで呼んでくれた声で再生した。
しかしそれは電気ショック、諸刃の剣。
有名声優にフルネームを呼ばれるが如く。
正気で耳から入れば、感動で気絶するだろう
「ごめんなさい!」
「ふふっ、さっきから謝ってばっかり。
そんなに私って怖く見える?」
「ま、まさか!
本当に優しくて綺麗で......って
ああ! 今の忘れてください!!」
「あはは、焦る演技上手いね」
演技で冷や汗と脂汗は同時に出せない。
見て欲しい、この汗を!
とはならない。
憧れの人に必死に見られまいと毛穴を閉ざす。
意識的にはもちろん無理だが、気合で締める
「そうやって女の子を褒めるって手段かぁ~
それで彼女たちを骨抜きにしたの?」
「え、いや、あの......」
完全にチャラ男か何かだと思われている。
その先入観を払拭できるなら、最悪アイツらとの
絶縁を選んでしまうかもしれない
「ウソだよ、ごめんごめん。
今のは意地悪だったね」
「あ、え、はい!」
もっと意地悪してくれてもいいですよ、だとか
口走りそうだ。
少しでも理性が残ってる内に、冷静になれる話題を探した
「つ、角田さんって何でアイツと仲良いんですか!?」
「ん? 薫のこと?」
無駄に頭を縦に振った。
会話のキャッチボールを一旦、休止して欲しかった
「そうだね......話題になってくれたのは貴方だったかな」
「......えっ、俺?」
満面の笑みで彼女は応えてくれたが、
奴がどんな余計なことを角田さんに話したか分からないので
途端に冷や汗が優勢となって、緊張を静めた。




