夏休み編・25
着替え終わって二人に再会すると、
伸びそうになった鼻の下をさっと手で隠した。
口角が上がってしまう男の性も漏れなくである
吉沢さんは肌を覆い隠した長袖のパーカーっぽいラッシュガード。
それでも目立つ部分は目立つ。
それでも恥ずかしそうにしているのがニヤケを誘発する
対して挑発的なのは美咲の三角ビキニ。
もう下半身はチラ見でさえ危ない。
やり過ぎ感が反対に冷静な感情を取り戻させてくれている
「さあ、いくわよ」
自慢げなところを見ると勝負水着であるのだろう。
素っ気ない返事で済まして感想などは求められないようにした。
到底、目を合わせて話せそうにない
さて、人力車に座ると
美咲に追いやられて端に座らされた。
やはり狭く、何とか壁に吸い付くようにして密着をギリギリ
防いでいる
「何よ、アタシのこと避けて」
「そういうわけじゃ......」
普通にしていたら思い切り触れ合うのだから
気を使うのも当然だ。
それに二人きりではないのだから
「そしてアンタもなんで縮こまってるのよ」
「お、お気になさらず」
まだ美咲は怖いのだろうか、
吉沢さんはさっきから遠慮気味だ。
幼馴染の間柄でも今ではそうなのだから伝染もするだろうか
「それにしてもアンタって結構なプロポーションじゃない」
「そ、そんなことないよ~」
「着替えてる時は言わなかったけどさ、
治雄も聞いてよ。この子の大きいのなんのって――」
「やめてっ!」
ニヤニヤして吉沢さんをいびっている。
花山にされたストレスを彼女にぶつけているのだろうか。
助けてあげたいが、気になる話題なので黙っておこう
「それにバストだけじゃなくてヒップも――」
「言わないで!
そんなこと言ったら、み、美咲ちゃんも凄かったんだよ!
ハルオ君にい、言っちゃおうかなぁ~」
その後、突如の静寂。
何事かと外に目を逸らしていた視線を横に戻すと、
すまし顔の美咲と気まずそうな吉沢さんが。
きっと、こういうことだろう。
言いたければ言えば良い、と。
絶対の自信からまるで動じていない
コイツはやはり、強い。
精神力がとにかく
誤魔化すために自分が唐突に景色の話題で食いつなぐことで
沈黙はさせなかった。
そうして到着、降りると光に照らされる彼女たちの姿が眩しい。
遠くにはやたら男子と女子が距離を離れて各々満喫しているようだ
「さっ、行こう!」
美咲は手を差し出した。
掴んでしまったらきっと走り出すだろう、青春になる画には
裏に隠れた疲労がつきものだ。
目の前の女は強靭だからヘッチャラだが
「はいはい」
手を預けるとやはり容赦なく引っ張られ始めた。
そこですれ違いざまに見た吉沢さんの目は寂しそうだった。
強引に道連れにすることにした
「ほら、一緒に!」
呼び掛けながら迷惑かもしれないがもう片方の腕で手を繋いだ。
最初は驚いていたが、やがて太陽にも負けないくらい
輝いた笑顔が見れて良かった
両手に華やかな二人を連れて、
自分も笑みを浮かべて青空と青い海を見つめて走る。
走りの速い二人に焦らされて、サンダルが脱げ
裸足で熱々の砂地を踏んで喜びの雄叫びが絶叫になるまで、
スタートから数秒と掛からなかった




