夏休み編・24
「では、海にいくぞ!」
ある程度小休止を挟んでからの集合で
縦にも横にも広いリビングで花山はそう叫んだ。
部屋に戻ってこなかったが一体何をしていたのだろうか
「おお、遂に海か!」
淳だけに限らず皆の顔が明るくなった。
あの美咲でさえ楽しそうだ。
したり顔に見えた気もするが
「解散次第、皆着替えること!
女子が先に人力車で運ばれていくから、
男子は各々ゆっくりするように!」
「ええ!? 女子のが遅いのに!?」
「口答えするでない!
あ、そうだ。 あの人力車は二人用なんだ。
貴様だけ置いて貴様の弟とハルだけを乗せることにしよう」
「ど、どうかそれだけは!!」
笑いに包まれて解散となった。
そうしてそれぞれ自分の部屋に戻る中、
吉沢さんが近付いて来た。
相部屋の美咲は上の空で歩いて行く
「美咲と一緒に行かないの?」
「その美咲ちゃんとのことなんだけど......
せっかく広いお家だし、散歩しながら話そう」
「う、うん」
道を知ってるかの様に先導されて
歩いて行く。
本当に豪邸というやつだ、あまりに広い。
彼女が不動産屋のように色んな部屋を紹介してくれるだけでも、
そこそこの時間を要した。
そんなこんなで二階に上がると海が見えるバルコニーに出た
「実は彼女と一緒にいるのが気まずくて、
この家を一人で歩き回ってたの。
構造については一足先に詳しくなっちゃった」
「ああ......」
なるほど、美咲の奴め。
吉沢さんにまだ素っ気ない態度を取っているようだ
「ちょっと、今は機嫌が悪いんだよ。
普段はあんなんじゃないんだけど......」
「そうなの? 良かったら美咲ちゃんと仲良くなれる方法教えてよ」
「う~ん......」
そう言われると幼馴染の扱いについて適切なものがパッと思い浮かばなかった。
長い付き合いだと心掛けていることなど無く、
自然と接しているので明確には表現しずらい。
こういう時に親しすぎるというのも困るものだ
「なんかひたすら治雄君のことについて言ってた気がする。
たぶらかさないでよね、みたいな感じで」
「マジか、こっちが恥ずかしいよ」
「あはは、なんかお姉ちゃんとかお姑さんって感じ」
それでは吉沢さんが嫁に来た、みたいな感じになっているのだが
流石にその例えはこちらが思い上がってるようで言えなかった。
「まあ、そんな感じだし、
俺には全くそういう気は持ってませんって言えば良いんじゃない?
あと適当にでいいからアイツの言葉に対してイエスマンしてれば、
心をいずれ許すんじゃないかな」
「そっかそっか、やっぱり最初の内は同調が大事だよね」
ハッキリしない助言であったが彼女は納得してくれたようだ。
次いで何かを呟いた気がした
「全くその気がない、とは言えそうにないけど」
「あ、こんなところにいた」
背後で声が聞こえるとそこには美咲がいた。
「先に男共行かせちゃったから、もう私たち三人しか残ってないわよ」
「え、兄弟を先に行かせたのか?」
「そうよ、アイツがさっき言ってたけど二人用だから
アタシらが一気に行かなきゃならなくなったわけ。
分かったら二人ともすぐ着替える」
急かされるままに吉沢さんと中に入った。
「お前だって着替えてないじゃないか」
「水着姿でアイツらと直接関われるわけないでしょ?
兄の方が特にスケベそうだし、イヤらしい目で見られちゃうに違いないわ。
その子が来てから着替えるつもりだったの」
そう話しながら美咲が後ろを指した指の先、
振り返ると何故か距離を空けて歩く彼女が気になった




