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夏休み編・23

「元々は四人の予定が七人になってしまったのでな。

 不測の事態でこうなってしまったのだからじっくり悩んでくださいまし?」


頭を抱え悩む男を置いて奴は高笑いしながら去って行こうとする。

その背が見えなくなる前に決断をしたいとは思う。

しかし、迷う。


どちらのリスクを取るか、ということだ。


自分だけが皆と違う環境に置かれて、

心置きなく、くつろげる図太い神経があれば話は簡単だ。

だが俺は違うボーイだ。

今、総勢7人になった団体のことを考えることのできる男なんだ


皆からの非難はもちろん辛いが、

何より角田さんに少しでも悪印象を及ぼしてはならない。

それに、自分が我慢すれば

彼女が一人部屋にさせてあげられるではないか


そこで吹っ切れた。

特別扱いが彼女に向かっても、彼女なら許されるだろう。

あの人を現に特別に思っているのは何より自分なのだからこそ、

こんな簡単な選択肢はない


彼女のおかげで思い残すことはない!


「花山ぁ!!」


油断しきっていた小さな体がビクッと反応した。

余裕の笑みを向けるのはこちらの番だ


「俺はお前と同じ部屋にすることにした!

 角田さんを誰もいない、シングルに変えろ!」


まさかの決断に奴は硬直している。

こちらを上手くからかってやろうという罠をまんまと踏み抜いてやった。

きっと噓から出た実になるとは想定していないはず。

今度、焦るのはお前の方だ!


だが、


「そうか、じゃあ荷物は移動させる必要はなくなったな」


アイツは笑った。

それも勝ち誇ったように。

どう転んでも奴の勝利であったかのように!


鼻歌交じりのスキップで勝者は消えて行った。

やはり、意地など張らず一人部屋にしてもらえば良かった。

調子に乗ったアイツに赤っ恥をかかせて、

部屋を変えさせるという完勝など目指さなければ良かった


そもそもあの女は恥も外聞もなく男の家に忍び込む奴だという

ことをすっかり忘れていた。

どうあっても勝てっこなかった......


「俺は敗北者じゃけぇ......」


最後の頼みは奴が何だかんだで結局恥ずかしくなって

男女二人という空間から逃げ出してくれることだけだ。

最初に出会った時も裸を見られるのと流石に恥じ入る

乙女の反応をするようだし......


しかし、それは最終手段。

覗きやらイヤらしいことを奴を退けようとしたことを

言いふらされては、周りからただの加害者だと思われる。


真の被害者は俺だってのに


「はぁ......とりあえず、入るか」



先ほどはベットが二つという衝撃だけで周りが目に入らなかったが、

他にも見逃せないポイントがいくつもある。


その一、ベッドが近い。

ツインと変わらないは言い過ぎでも、

糸田兄弟の部屋と同じく両端にしろ、と言いたい。

ちなみに移動させようにも床に固定されていた。

花山のは天蓋付きのせいもあったので、もう片方の自分のベッドを

動かそうとしたが同上である


その二、無駄に広い。

糸田兄弟の部屋より広い。

本当にあくどい奴である。


その三、テレビがデカく当然のようにゲーム機が完備。

無論、他の部屋にはないだろう。

夜通しやりそうで安眠妨害だけは勘弁である。


その四、ゲームのコントローラーに俺の名前が貼られている。

そもそも一緒にやらせるつもりらしい。

逃れられない


その五、部屋の壁紙がピンク色。

もうこれに関してはノーコメントでありたい


探せばまだまだありそうだ。

部屋を一周しただけで気付かされるだけで五つ。


溜め息をついてベッドに倒れ込むと、

また一つ分かってしまった


その六、俺のベッドにもう奴の臭いが染みついている。

動物的マーキング洗脳でもしようというのか。



消臭スプレーを持ってきて成功だった

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