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夏休み編・22

三人で目的地に到着する頃には汗だくだった。

一刻も早く、海に飛び込みたいと誰もが愚痴をこぼした


そうしてログハウスに着くと、まず冷気が出迎えてくれて

火照った体を優しく包むのであった。

へたり込んでしまいそうな脱力感が全員を襲う。

奥に伸びて行く廊下にはいくつも繋がる道とドアが見える上に、

オブジェのある中庭をグルっと囲むような部分がいくつもあり、

まさに金持ちの別荘という造りである


これを突貫工事で作ったらしいのだから恐ろしい。


外観以上に中が広いことを十二分に知ると、

その内の一つのドアから大きな身を屈めて狭そうにビルが出てきた。


こちらに気付くと早速二人の荷物を持って、

案内してくれた。

着いた先は糸田兄弟のための部屋のようだった。


「おお! ここが俺達の領土か!

 あー! おい、見ろよ! テレビもエアコンもちゃんとあるぜェ!!

 しかも二段ベッドじゃねぇぞ!!」


「ああ、綺麗で広く素晴らしいよ」


兄弟そろって感激している様をビルと共に優しく見届けると、

そっとドアを閉じた。

すると、うるさい兄の声が途端に聞こえなくなった


「まさか、防音もちゃんとしてあるのか?」


その問いにゆっくりと逞しい男は頷いた。

何から何まで至れり尽くせりである


「あ、ついでに悪いけど俺の部屋も案内してくれるか?」


笑顔で応じてくれると

連れられたのは、ツインの部屋だった。

当然、糸田兄弟がそうであった様に

自分だけ一人部屋ということはないだろうが、

考えてみれば他に男子がいないという驚愕の事実に今更気付く


「俺は誰と一緒なんだ?」


ビルは困ったようでいて恥ずかしげな顔をした。

やはり相手は女子ということなのだろうか


「お、やっと来たか」


相手の声が背後から聞こえてげんなりした。

まあ、コイツになるだろうとは薄々気付いてはいたが


「まさかとは思うが、お前と一緒なのか?」


それを聞くと、人は生きるのに呼吸が必要なのか?

と同レベルのことを問われたかのような素っ頓狂な顔をされた。


「当ったり前だろ? 何言ってるんだ、ハルは」


「いや! お前が何を言ってるんだ!!」


夫婦喧嘩は犬も食わない様に、

痴話げんかのような物であれば従順な使用人でも避ける。

ビルはそそくさと大きな体にしては器用に静かに消えて行った


「あ! 分かった!

 ツインが気に食わんのか~

 もう~、そう早くに言ってくれればダブルベッドにしたものを~」


「んなわけあるか、バカ!!」


「ふぅ~ん......じゃあ、他の誰かだったらいいのかな?」


「そ、そういうわけにもいかんだろ......

 他は女子だけだし」


そのセリフを待ってましたとばかりに

ここで、花山の口元が歪んだ。


「じゃあ、一人部屋がいいのかな?

 ヒイキ、されたい?」


「ぐっ、そ、それは......」


贔屓の文字をゆっくりと読むあたり更に意地悪だ。

コイツめ、なるほど。

奴にしては上手く出来た小癪な策だった


こっちの性格上、一番特別扱いされるのが嫌なタイミングを

狙って贔屓嫌いの発言を誘い、

ワガママを聞いてもらいたいこのタイミングに合わせて

過去の自分の言葉を匂わせることを、

それまた嫌らしく思い起こさせてきやがった


これでは前言撤回に加えて、コイツに強く言えなくなる借りを作ることになる。


そんなことを想うと、美咲の態度も納得である。

先にアイツもこの小賢しいチビッ子にしてやられたというのか


そんな、こんな奴に......そんなことが出来る訳がッ!


「ねえねえ、どうする?

 あの兄弟男共当然その二人で、米田は吉沢と組ませてある......

 あとは...私とアキとでツインでもいいが......

 そっかぁ~、ハル君は一人だけトクベツにシングルなのかぁ~」


「ぬぬぬ......」


プライドのためにコイツと一緒になるか、

そんなものを捨てて一人になるか。


しかし、そんな話は単純ではない。

後にそれが知られれば流石に周りも冷たい目を浴びせてくる。

だが、苦渋の決断で自ら花山と同じ部屋を選んだことが

美咲にバレれば、どんな暴挙を起こすか分からない......!


「ど、どうすれば良いんだぁ!!」


「オーホッホッホッ!」



まさに悪役令嬢が目の前に立ち塞がっていた。

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