夏休み編・21
足場が悪かろうと人も荷物も持っていようとも
衰えぬ脚力には驚く。
あっという間に呆然とする二人組が遠くに見える
「どうだ、人力車の乗り心地は?」
「こ、これは人力車とは呼ばんだろ......」
「ちゃんとモノホンはここにあるぞ?
まあ、一人のためにこれを動かすのも面倒だろうしな」
花山が寄りかかった物は本当に人力車そのものだった。
わざわざ運び込んだというのか、
そもそも目の前の立派なログハウスも事前に建設させている辺り、
島は完全に花山財閥の私物と化しているのかもしれない
「正面から見る身軽になったビルの全速力は迫力があったであろう?」
「まあな......」
自慢の使用人を褒めながら、
何故かビルに割烹着を手渡した。
そして彼は普通に着用した
「え、えっと何でそんな恰好を?」
「ん? ああ、何かとここでの生活を支える家事などの
雑務をやってもらうからな。
他にもハルの見知ったメイド三人衆も中にもういるぞ!
流石に女も多くいるというに、その衣類もビルに任せる訳にはいかないのでな」
顔を赤らめながらビルはパツパツの身体で何とか着終えた。
何とも不格好である
「では、頼んだぞ」
「......あ、おい
あの二人はどうすんだよ」
「男なのだから大丈夫であろう」
「俺も男だぞ」
そのまま去ろうとする花山の肩を掴んだ。
その手の上にそっと小さな手を乗せてきて目の前の女は振り返った
「もちろん、私にとって一番大切な男だ」
「じゃあ、二人を俺みたいに助けに行かせてくれ。
その大切な俺からの頼みだ。
それこそ人力車を使ってあげたらいいじゃないか」
それを聞くと色気付かせていた流し目もやめて溜め息をつかれた。
「ハルだけを大切に扱っているということが分からないのか?」
「そうかい、嬉しいことだ。
でも贔屓されるってのもいい気分ばかりじゃない。
手を貸さないっていうなら俺が行く」
やんわり触れられていた手を振り払って、
二人の元に走った。
一瞬、振り返るとこちらに向かって来ようとするビルを
わざわざ制する動作を見せた花山の姿があった。
それを見ると、どんな蛮行であれ花山だから
と見逃してきた自分の心に失望が浮かんだのが
自身意外であった。
いつからあそこまで冷めた人間性......というよりかは
それこそ、過去に持っていた金持ちに対する利己的なイメージを
そのまま体現する様な奴になってしまったのだろう、と考える
それがまた悲しくも思えたことが、自分自身を不思議に思った。
「おお、来てくれたか我が後輩よ」
ボッーっと走っているといつの間にか二人の近くまで戻って来ていた。
「手伝いますよ。 身軽になったんでね」
「ああ、ダウンし掛けてる一慶を頼む」
指さした先の男は死にかけていた。
すぐさま駆け寄って手伝う
「それにしてもお前大丈夫か?」
「え?」
自分よりも弟にかけるべき心配の声を向けられて驚く。
「荷物から解放されたってのにさっきより顔色悪いぞ?
あんまし無理すんなよ」
「あ、はい......」
自覚のない内にどんな顔をしていたのだろうか。
己の事は他者の目からしか知りようがない




