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夏休み編・20

「あ、あっちぃ......」


「もう...淳先輩のせいっすよ、マジ」


「わ、悪かった......

 ついはしゃいでこんなに辛くなるとは」


結局、多少体力に余裕のある一慶にある程度荷物を持ってもらいながら

地獄の行軍のような男三人が出来上がっていた。


「ま、周りは木があるっつーのに、

 ここだけ綺麗に開けた道なんか作ってくれちゃって......

 おかげで、日に晒されるまくりだ......」


「お、重い......」


「頑張れ、二人とも......きっともう少しだ」


そう言いながら顔を上げると、

かなり大きな家らしきものが見えた。

しかし、それが小さく見えるのだからまだまだである


その現実を下を向いて歩いている二人は気付いてはいないようだ。

敢えて現実を教えることはあるまい。

黙って三人でヨタヨタと歩く。

一慶なんかは本当に存在が消え入りそうなほど弱ってる


女子の方が荷物が重いだろうに

皆は無事、渡り切っただろうか?


上を向いて歩こう、などとは声を掛けることも

できないヘロヘロ三人組は、

ひょんなことから頭を上げることになる。


何かの地響きが聞こえてくる。


「ん? なんだ? 地震か?」


「ここって確か...山も見えたよね

 あれって活火山だったりするかも......?」


「い、一慶! 不吉なこと言うんじゃねぇよ」


「それにしては音が近付いて来ているような......?」


感じた振動に関するコメントを合図に兄弟も続いて

顔を上げると、一斉に声を上げた


「「「なんか突っ込んで来る!?」」」


砂を巻き上げ、煙に隠れながら

もの凄い勢いで先ほどみた家の方角から

何か来る。

調理するはずだった猪でも逃げ出したのだろうか


「や、やべえぞ!

 逃げようにも、避けようにもこんな状態じゃ!」


「も、もうダメだ......」


遂に一慶は絶望と重みと疲れで膝を突いてしまった。

兄は助け起こそうとするが、容量一杯のリュックサックが

屈むことを許さない


「く、くそっ! こうなったら!」


淳は自分と一慶の前で手を広げた。

庇うつもりだ


「なにやってるんすか!」


「たまにはカッコイイ所、見せなきゃなぁ......」


「いけない! 兄貴は物語でよくある、

 命を懸けて仲間を守る役とかが昔から好きだった!

 それを今、実演するつもりだ!」


「なんだって!?」


何が来ているのかも分からず、盛り上がる三人の手前

猪突猛進の正体が肉眼でも分かるような距離になってきた。


あのシルエットはどこかで見覚えが......


「来い!! 二人は俺が守る!!」


「兄貴ィ!!」


迫真の叫び声が青空に響いた。

その後を追う様に悲惨な光景が辺りに広がるかと覚悟した。

しかし、何かはするっと淳を避け


「お迎えに参りました」


そう言うと肩に担がれ、

自分の荷物も持ってもらい


「少し揺れますのでご注意ください」


馬車馬が如く疾駆する。

景色が高速で過ぎていく。


正体は、かの里帰りから戻ったことでちょこっとだけ

話題に上がったビルだった

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