夏休み編・18
温かなようで真の感情を表に出さない様子で
花山は歓迎を促した。
ちょっと目を離した隙にずっとこんな調子だ。
紳士ぶっているところが逆に胡散臭い
そうしてようやく荷物が船員たちによって運ばれた後、
ようやく上陸を三人は許されたようであった。
ゲストと称すには随分な扱いである
「紹介しよう。
まずはladies firstと行こうか」
手順の通り、美咲が我先にと船から飛び降りた。
本人に自覚はない様子だ
「彼女は米田 美咲。
私の...まあ、詳しくは言えないがライバルあるいは
好敵手とでも呼んだところか。
日々、切磋琢磨の関係にある人物とだけ言っておこう。
では、拍手を」
気取った感じだが、
特に嫌味や脚色もそこまで無いため吉沢さん達に倣って拍手をした。
美咲はそれに気づくとキョロキョロして、最後に
説明を求めて目線をこっちに寄越してきた
「美咲さん、あなたから何かこのイベントに飛び入り参加する上で何か
意気込みなどがあれば、どうぞ」
「えっ?」
その瞳がすぐさま無茶ぶりをする花山に向いた。
まさに鳩が豆鉄砲を食ったようだ。
それと気になった点が一つ、
ゲスト扱いなのに飛び入り参加というのが気に掛かる
「えっと......楽しませて貰います、はい」
「......以上、美咲さんからでした」
明らかな間を作って気まずくさせたのは確かだ。
あの花山が一方的にあの美咲をいびっている。
これは何か裏がありそうだ
「ええ、そして男子が二人。
こちらに関しては......うむ、
自己紹介でもしてもらおうかな。 拍手」
居心地の悪そうな幼馴染はいそいそと隣にやってきた。
「何があったんだ?」
「あ、後で話す......」
なんだか歯切れの悪い感じ、
アイツに握られてしまうような弱みなどあっただろうか
「ん、おい一慶!
俺達歓迎されてるみたいだぞ!」
晴れ渡る空にピッタリな響き渡る声、
淳先輩のご登場だ。
その後ろには澄み渡る様な一慶がいる
「あ、あの人顔怖いし何か背後霊いない? 怖いよ~治雄君」
そう言って人見知りな上に怖がりな吉沢さんが美咲以上に
接近してきた。
他の人間なら完全にパーソナルスペースを侵犯されて怒るところだ。
無論、自分は気にしないが幼馴染から絶賛怒りを買っている状態である
その女誰よ、と騒ぎだしそうな目つきだ
「え、なんだって自己紹介?
おお、そりゃ俺の大得意分野だ!
ならそうだなぁ......まずあれは俺が小学――」
「こちらが兄の淳、僕が一慶です。
よろしくお願いします」
「はい、ありがとうございました。 拍手」
「え、ちょ! これから数分は話すつもりだったんだが!」
だから僕が止めたんだよ、と言わんばかりの弟。
相変わらず大変そうなのを見ると、やはり連れて来るべきではない
人物筆頭なのが、その兄だ
「というわけで皆、揃ったところで
まずはやってもらうことがある!」
そう言ってクルーもとい使用人が人数分の用紙を配り、
わざわざ横長机を砂浜にドサッと置いた。
用紙の内容は何か契約書のようであった
「それは君たちの安全を保障すること、
そして君たちが我々に全幅の信頼を寄せ、
身柄を委ねることを筆跡として残しておくべきものだ。
どうぞ、気軽に署名してくれ」
これから学生である自分達だけで行動するというのに、
花山という我々が何を指すのかが曖昧だが
危ない臭いがプンプンすることは疑いようがない。
身の危険が及ぶようなことが、この島で起きるのかもしれない




