夏休み編・15
「ふっ、邪魔が入ったか......」
「治雄!」
潔くも花山は即座に飛び退き、
ヒーローならぬヒロインに場所を明け渡した。
すぐさま同じくらいの体格がぶつかって来るような衝撃を受けつつ、
抱き締められた
「大丈夫!? どこまでアイツにされたの!?」
「何もまだされてないから......
てか、何でお前がいるんだよ...美咲」
間違いなくそそっかしい幼馴染がすぐ傍にいて
密着されている。
次第に脱水状態のために足から力が抜け、
体重を任せてしまっているがまるで離れない
「あ、えっとそれは......治雄を助けるため!」
「苦しすぎるぞ、理由が......今の俺の体調くらいに」
「気分が悪いの?」
「クラクラするんだ、水をくれ......水」
きっと眩暈のような症状は決して、
奥に見えるほくそ笑む女にドキドキしたからだとか
そんな理由でないことを願うばかりだ
「食堂は、下りてすぐ左だ。
そこにならいくらでも飲み物はある」
「お、覚えてなさいよ」
いつもと違って余裕綽々な花山は美咲に給水所を教えた。
その自信がどこか不気味に感じられながら、引きずられていく
その途上でいつしか二人の男の声が、
近くに聞こえていた。
「全く、いきなり走り出すから追ってみたら
今度は救護の手伝いさせられるとはなぁ」
「治雄に触れていられるチャンスだけど
さすがに重いんだからアンタに任すしかないじゃない」
「そんなことよりどうするんですか......
ヤマオ君以外の人も上にいたんでしょう?」
「治雄がアタシに助けを求めてる気がしたんだから仕方ないでしょ!
現に襲われてたし......いたのは許せないアイツだけよ。
ここのオーナー、何か今日は感じが違ってたけど
元がポンコツだから鶏みたいに三歩歩いたらアタシの事忘れるんじゃない?」
口論のような、一方的なまくし立てのような
男女三人の会話が聞こえる。
恐らく男二人は糸田兄弟だろう
何故彼らもここに?
やはりこれも気絶した後の夢なのだろうか
「流石に花山さんのこと馬鹿にしすぎじゃ?」
「それに掛けるしかないってこと。
後は治雄だけど、きっとこんな状態じゃ意識も朦朧としてるし
アタシのことは夢で見たんだとか思うに違いないわ。
可哀想だけど、水分をあげたらその場に寝かせて一旦アタシらは戻るわよ」
「はいはい、仰せのままに女王様ってか」
自分を担ぎ上げているであろう淳が蹴飛ばされたような悲鳴を聞き、
その後はブラックアウトした。
そして気付けば自分は食堂で一人、
床でも寝心地の良いカーペットの上で倒れていた。
「ハルオ君~? どこ~?」
吉沢さんの声が聞こえる。
返事ができるか心配だったが、
喉からは擦れた音は出なかった
「ここだよ~」
どころか少し腹が膨れている。
どれだけ飲ませたんだ美咲め......
「もう、どこ行ってたのって......大丈夫!?」
「ああ、ちょっと転んだだけだよ」
完全に地面に伏していたが、
強がってみせた。
そろそろ意識を失っているところを何度も見せていては
女の子より軟弱なのではないかと思われてしまう。
運動神経の良い彼女からは尚更、そう捉われてしまいそうだ
「ホントに?」
「ああ、もう大したこと――」
ない、なんて言おうとして口が開きかけて止まる。
大したものが目の前にあったからだ。
屈みこむ彼女のスカートの中が見えてしまった。
それにまるで吉沢さんはまるで気付いていない。
危うく、またノックダウンだ
「ほ、ほら! すぐ立てた」
「ああ、なんだぁ~
心配させないでよ~」
そう立ち上がる際にも素晴らしい谷の間を見た。
なんて上からも下からも油断も隙もない、
いや隙だらけな人なんだ
そのまま外に出て行く際に平静を装いながらも、
思い切り左肩を角にぶつけた。
やはり、まだまだ余裕のある男からは自分は程遠いらしい




