夏休み編・14
「はあ、はあ......」
「う、うぇ......」
数分の内に元気だった両者はどちらともダウンしていた。
「こ、こうして仲睦まじく遊んでいる間にも......
下を見てみるが良い」
「な、なんだと......?」
何とか手すりに掴まり、海面を見ると
荷物を積んで陸と船を行き交うボートが見える。
しかもその中には、
「ああ!! 俺の荷物!!」
いつの間にか一足先に主人より持ち物が上陸を果たそうとしていた。
「ふっふっふ......」
「何が可笑しい!?」
「着々とこの島で私たちがsweetな時間を過ごす計画は
進行中なのだよ、ハル君。
もう止めることはできない!」
「それはどうかなぁ!?」
また取っ組み合いが始まる。
しかし今度は頭一つ分では済まないくらいの女に
負けている自分がいる。
あまりの自身の弱さに狼狽する
「ど、どうなっているんだ......!?」
「気付かなかったのかな?
恐ろしい事実を最愛の君に教えよう......」
「な、なんだ!?
まさか毒でも盛ったのか!」
「そんなことをするわけがないだろう?
私はハルが好きなのだから」
相変わらずストレートな告白にもいまいちときめかず、
肉体の弱体化の方が気になる。
「では、お前は俺に一体何をした!?」
「何もしなかったのさ。
そう、愛する者が水分不足に喘いでいるというのに」
「なっ!?」
理解とは、意識とは、
明確にしてしまうほどに実感となっていく。
事態に納得してしまうと体は遂にロリにも負け始めた
「可愛いものだな、ハル?」
「う、ぐおおおお!
馬鹿な、そんなっ、こんな奴に!!」
悔しさと屈辱でついつい
「くっ、殺せ!」
と言ってしまいそうに......いや
もう、心の中で思った時には口が実行していた。
「まさかなぁ?
これからするのは生殺しだ。
私との島ライフを満喫することをずっと享受し続けろ!
幸せを抱いて溺死しろ!」
「強引過ぎるぅ!」
熱烈なプロポーズと圧に手すりでエビ反りになる。
落っこちてしまいそうだ
「さあ、誓いのキスだぁ」
「や、やめろおおお......」
足からよじよじ登って来る。
子ザルがするすると親ザルの身体を這い回れるように、
這い上ってくる。
その際全く気分の良い感触はない
「こんな子供体型の奴に!」
「そんなことを言えるのも今の内だ。
唇が合わせれば、目がハートになってしまうんだぞぉ?」
「な、なるかボケが、離せ! 登って来るなあ!」
サソリの如く四肢を存分に使われて
顔付近まで、キッスの射程圏内にまで侵入を許してしまった
「計画進行の時間稼ぎもとい好き放題タイムのクライマックスだ!」
「きゃああ!!」
久しぶりに上げた擦れた女子風の声の叫び。
誰かに届いてくれ。
助けてくれ。
こんな時、誰が救ってくれるだろう?
いつもなら......
いや、アイツはいないのだった。
俺が置いて来たのだ。
ここでツケは回ってきたというのか!
上を向けば、
顔には燦々と降り注ぐ太陽の光が待っているはずだ。
しかし、今は影になる顔がある。
とっても綺麗だ、しかし邪悪だ。
光を背に受けて見える姿は正直、
見た目だけは良いからこそ映えるものがある。
宝石の様な瞳には鈍く輝いて吸い込まれそうだし、
勝ち誇った微笑もまた妖しさのある色気というやつだろうか、
どこかいつもの童顔とは違って見える
原因は垂れ下がってくるツヤのある髪から勘付いた。
それもニュートンが落ちてくるリンゴから気付いたように。
つまりは下向きの顔というものは老けて見えるという現象のせい、
またはおかげとも言うべきか。
幼いコイツには追い風のような効果を生んでいる。
大人っぽく、というのは過言であれど年相応に見えないこともない
匂いまでこの時のためか、安らぐようでドキドキするような
甘い香りを伴って来ていた。
そして極めつけは、
「おとなしくしろ、ハル」
「うっ」
耳元でそっと囁かれた。
最近、寝る時に聞いてハマってしまったバイノーラル録音のことを
調べ上げているのか。
背筋がゾワッとする感覚はさほど満更でもないと感じてしまった
「ず、ずるいぞ」
「フフッ」
これこそ体格と笑みも相まって小悪魔と言ったところか
「むちゅうう」
「んっ」
そこまで来て結局間抜けなリップノイズをさせる花山を前にして
遂には覚悟を決め、できるだけ唇を薄くしていると
「なにやってるの!?」
救世主の声が響く。
断頭台の刃がギリギリで首の近くで止まったように、
キラキラともテラテラともしている女の唇が寸前だった。
媚薬入りの口紅だったかもしれない
かと言って現れてくれたヒーローも
過去に同じように俺を襲った、
ここにはいるはずのない奴だったりするのである。
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