夏休み編・13
船は桟橋も港もない場所で止まった。
それはミスでも何かの事故でもなく、予定通りそうなっていた。
そもそも着いた島にそんなものはない。
そう雄弁に語ってくれるかのように青々と茂る緑と
美しい蒼の広がる海に寄り添うようにどこまで続いてる白い砂浜は
人の手を離れた存在である姿を見せつけていた。
寄せては返す波は余所者を拒むかの様であるが、
そんなこともお構いなしに
今まさにその地を楽しみ尽くしてやろうと目論む、
女子高生が遂に声を張り上げた
「ハルッ! 起きろ! 遂に上陸だ!!」
「んへっ?」
嫌な目覚めだ。
前回のすぐそばに角田さんがいてくれた最高の目覚めとは真反対だ。
最高と最悪が交互に来るのかもしれない。
また、寝るか......
「こら! 目覚めのキスが欲しいからってワガママだぞ!」
「...んだとぉ~!?
お前の口からワガママだなんて言われたくないわッ!」
床を叩き割ることも辞さない勢いで立ち上がった。
そこにはいつも通りの小さな女のニヤケ顔がある
「それとお子ちゃまからファーストキスを貰ってたまるか......」
「ん、何か言ったか?
それにしても見事な完全復活だな!
さすが私の認めた男だな」
「はっ、そりゃどうも」
見下ろしていた視線の先が、正面を捉えた時
まさか叫ぶとは0.1秒前の自分は思わなかったことだろう
「えええええッ!!?」
「うおっ、なんだどうした?」
そこには絶景とも呼べる古来から変わらぬ
在りのまま自然、島がそこにあった。
南国に生えているのをよくテレビで見た小高い植物が森のように続き、
その果てには山が見える。
そして周りを取り囲むのは、本土から陸続きでいける茶色の汚い海とは
一線を画した真っ青なスカイブルーが覆いつくしている。
空に上下を挟まれているかと錯覚するような透明度は、
自分の目玉でしっかり捉えられているか不安になってくる程だ。
下の空には小魚から見たこともない大きさの魚まで
スイスイ泳いでいるのがくっきりと映っている。
ジャングルには鮮やかな鳥が留まっているようにも見え、
多様な生物の息吹が聞こえてきそうだ
人がいるならばとっくに様々なレジャー施設にされているところを
現地そのままにされている景色はまさに圧巻。
思い描いていた旅行などとは程遠い、冒険の始まりを予感させた
「お、おい......こりゃ一体」
「ふむ、流石のハルも言葉がないか」
何故、この女なのがこんなに自慢げなのか到底分からないし
分かりたくもないが一応聞くことにした。
「お前さ、まさかこんな無人島みたいな所に元々来る気だったのか?」
「あれ、言わなかったか?」
「言ってねえよ!!
どうすんだよ持ってきたもんとか!
どう考えてもホテルがあるようには見えねえぞ!!」
「ん~......まあ、なんとかなるだろ!」
ここで、お可愛いお嬢様の満面の笑み。
大きく鼻から息を吸い込み、口から吐いてから
ゆっくりと
「なるわけねえだろぉ!!」
あまりに軽すぎる同級生の女子を、
人形のよう持ち上げてから激しく
ブンブン振った
「や、め、ろおおおお」
「別の場所にしろぉ!」
「む、りいいいい」
それから数分間、メチャクチャ花山の首をガクガクにした。




