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夏休み編・12

「にしても大した客も乗せてないのに、

 貨物室になんでこんなにたくさん荷物があるのかしら。

 いくらアイツがおめでたい頭してるからって、

 たかだか旅行にどんな準備してきたのよ」


「流石に中開けて見る訳にもいきませんもんね......」


「でも、良かったよな。

 丁度これがなきゃ俺達隠れられなかったしよ」


「アンタは隠れられてなかったでしょ......」


未だ男女三人暗い中、

一人の船員を襲い気絶させたと言うのに緊張感も無く談笑中。

その襲った人物が誰かも知らずに


「はあー、ホント陰気臭い場所ね。

 早く太陽の光を全身に浴びてリフレッシュしたい」


「盗人猛々しい奴だなぁ、おい」


「うっさいわね。

 あんたもその盗人や悪人なのよ、もはや」


「はっはっは! それもそうだ」


能天気な悪人面に美咲は頭を押さえて溜め息をついた。


「ホント単純っていうか物考えない奴は羨ましいわね」


皮肉の分からない淳は首を傾げた。

そんな兄を見て弟は苦笑するのみ


「で、弟のアンタくらいはちゃんと考えて行動してたんでしょうね?」


「は、はい......見つからないようには」


「そんなの当たり前じゃない。

 外がどうなってたかとか、そういうここに居ちゃ分からないことの

 土産話や一つの二つないのかってこと。

 アタシは全く分からないんだからさ」


それを聞いてこの時ばかりは頼るように

頼りない相方を見つめる。


「なんか兄貴見た......?」


「んん~...飯食うのに必死だったからな」


「メシッ!?」


「兄貴! それは内緒にって...!」


慌てて淳は口を塞いだが、もう手遅れである。

ただでさえ暗所で閉所にいながら色々悩みもある中、

空腹状態の女の子の前で食事の話などしようものなら逆鱗に触れるのは

当然のことだ


「へえ~? 良い度胸ね?

 二人とも上でいい想いしてたんだ?」


「ま、待ってください!

 ボクは食べてません!!」


「おいィ! 一慶!!

 オレを売るつもりかよ!?」


「ホントのことだろぉ!」


この兄弟にして実に数年ぶりくらいの

珍しい口喧嘩が起ころうかという所で雷は落ちた。


「二人とも同罪よ! そこに座りなさい!」


「「ひっ!!」」



こうして説教が長々と続くわけだが、

それもあってか三人は身を潜めながらの旅の終わりが近付いていることに

まるで気付かなかった。


甲板の上では、


「凄い景色ね......まるで人も誰もいないような」


「ナツってば治雄君にしか事情を聞かされてなかったから、

 てっきり目的地はもっと穏やかな場所かと思ってたよ」


「......私も深くは聞いてなかったけど、ここまでとはね」


千夏と有希が壮大な景色を目の前にして圧倒されていた。

吹き付ける風は強さを増していた



「ようやく、到着か」


そして、待っていたとばかりに腕を組み

期待に満ちた顔の薫の姿が大型客船の最上部にあった。


「これから始まるのはきっと素晴らしい夏のイベントに、

 そして思い出になるはずだ。

 そうであろう、ハル」


雑に寝かされている治雄に、

薫は優しくもどこか含みのある笑みを向けるのだった

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