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夏休み編・11

「はぁ、はぁ......ど、どこいきやがったんだ...あのチビッ子」


手すりにもたれ掛かり、

季節も夏の晴天下の中走り回った男には妥当な発汗が全身を濡らした。

その水分量たるや、人間の体は約60%は水でできていると言われるが

その実に半分は出尽くしているのではないかというぐしょ濡れ具合だ


「あぁ~......熱い...

 吹き抜けるや風や海上だからなどという条件は、

 所詮激しい運動をしないからこそ、涼しく感じるだけだったぁ...」


そのまま放置されたアイスの如く溶けるように

床にへばりつく。

余力を振り絞って辿り着いたのは、最後の心当たりである

操縦室であった。

しかし、部外者がおいそれとは入れさせないための当然なる堅牢な扉は

入室しようとする意欲を削ぎ、中の状態も見れないとあっては

いよいよ精神がやられ始める


「あ、あいつめ......」


四度目の気絶こそは真剣に危険な意識の途切れ方をしようしている。

何とか戻らなくては。

彼女の元に戻りたい。

そんな気力だけで喪失した体力は如何ともし難い。

文字通り、力尽きることは必然だった。

失神寸前に何かが開く音が聞こえ、冷房のような不自然な冷気が

突っ伏した頭を撫でる


「......ああ、うん。

 そういうことで頼んだぞ」


最後に走馬灯のように聞く幻聴があの女の声なんて嫌だ......


「ふぅ......って、わぁ!?」


死体を踏んで始めて気付いたみたいなリアクションまでされる

幻覚がしてきやがった......


「お、おい? ハル、こんなところでなにやってるんだ?

 そこまでして私のパンチラを狙っていたのか?」


本当にふざけた奴だ......

もし、花山だったら許さん......


いや、これすぐ近くにいるの絶対アイツじゃねえか......!


「こんのやろおお!!」


「アブねぇ!」


屈んだところをアッパーしてやろうとすると、

さすがの反射神経と脚力で避けられてしまった。


「おいおい、ハルよ。

 油断させたところを大技で決めようとするなんてやるじゃないか。

 ん? この戦法をどこかで...?

 ウッ、頭が......」


「ば、馬鹿やろぉ......おめぇを探してて、こんな風になったんだぞ」


「なに?

 そんなに汗をかいてまで私のために!?」


「アホみたいな話は後だ......!

 とりあえず今は何でもいいから、水分をくれ......ひからび...ちまう」


手を伸ばす先には何もなく、パタリと腕が落ちた。

その後はよく覚えていない。


気絶癖がついて、後の生活が支障が出ないか

心配になってきた。

そんな現実味を帯びた不安と、

雑に拾い上げられた衝撃で一瞬、


「サプライズ前に、ホントにサプライズな男だなぁ」


なんてよくわからない台詞を聞いた気がした。

可憐なようでムカつくあの音程や印象に残る言葉が出るなんて

大抵、奴から以外に有り得ないのだが

サプライズという唐突な単語を朦朧とした中では意味を掴み切れず、

そこで正気は事切れた

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