夏休み編・10
ああ、目覚めたくない。
三度目の眠りの夢は先ほどの悪夢よりも穏やかなものだった。
それこそ思い出せる強烈な内容の悪夢とは違って、
思い出せないけれども何故か癒されるような夢だった気がする
そしてゆっくりと重く冷たい現実の窓を、
瞼を開けると
そこには夢の続きがあった。
「角田......さん?」
これは夢か、幻か。
目の前には彼女がいる。
窓の景色を眺める美しい彼女がいる
ああ、これはきっと明晰夢だ。
自分の方を振り向いてくれるはずのない人がこんなに
近くにいてくれるはずがない
これは夢なのだから、何をしてもいい!
そんな確信の元、憧れに抱き着こうとする蛮行を実行したのだった。
結果は、
「え、えっと...山崎君......?」
「......ん?」
意外な反応であった。
これは自分の夢の中のはずだ。
ならば、
もっと好感触な反応が返って来てもいいんじゃないか?
何故、こんなにも、
リアルというか生々しいリアクションが返って来るんだ?
「寝ぼけてるのかな......?」
「八ッ!!」
すぐさま彼女から離れるため、
ベッドに倒れ込んだ。
窓からの逆光で彼女の表情はよく見えない。
どうにしろ困惑させてしまったことだろう
「ご、ご、ごめんなさい!
え、え~っと...そうだ!
死んだはずのおばあちゃんを夢で見たものだから、つい!」
元気そうに答えることでもないので、
胡散臭さ満載である。
「あ、そうだったの......ごめんね。
夢だけでも再会をできるだけ長く喜びたかったろうに」
信じられてしまうほど罪悪感が募っていく。
少しでも他に意識を向けてもらうために跳ね起きた
「でも、大丈夫!
もう体調もバッチリだよ!
景色を楽しめなかったのが残念だなぁ!
今はどんな...風に......って」
ハツラツとした感じで振舞いながら外の景色を眺めると、
断崖絶壁の孤島がいくつも見える。
まるで人の住まう島が周辺にあるように思えない
「おいおい、どうなってんだこりゃ!」
進路でも間違えているのだろうか、
それとも元々サバイバル生活でもするような島を
目的にしていたのだろうか。
これは今すぐにでも奴に問わねばなるまい
「山崎君!? どこ行くの!」
「花山のところに確認に行ってきます!
どう考えても何かおかしい!!」
「病み上がりなんだから気を付けてね!」
優しい角田さんの言葉を背に受けて走り出す。
「アイツ、どこだ!?」
長い廊下を走り、
螺旋階段を駆け上がり、
見晴らしの良い屋上にも上がったが
花山の姿は見えない。
寝ている間に何か嫌な事が起きた気がしてならなかった
そもそも当初の計画の様にアイツと自分だけの旅ならまだしも、
角田さんと吉沢さんもいるというのに
トラブルがあるようなことは避けたい。
船員はあまり見かけなかったが、
誰もが日本語が通じそうな感じはなかった。
つまり意思の疎通が取れる人物は花山しかいないはずだ
だというのに、
こんな時に奴はどこに行った......!?




