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夏休み編・9

「はぁ~、食べた食べた!」


「ふふっ、そうだね」


満腹感からの幸福、

幸福そうな人を間近に見る幸福で千夏と有希は満面の笑みのまま、

治雄の部屋に寄るのであった。


「エリーちゃん! 治雄君の様子どう~?」


「shut up! 黙れ、泥棒猫!

 気安く呼ぶのとハルの安眠を妨害することは許さんぞ!!」


声のボリュームでは薫の方が大きいのだが、

誰も指摘はしない。


「先にご馳走になったよ、薫。

 あなたもそろそろ昼食を取ったら?

 ちゃんと山崎君のことは見ておくから」


「むぅ......アキにそう言われてはなぁ

 あ、でもダメだ!

 このチナトゥをハルの側に近寄らせるなぁ!」


「あ、じゃあナツがご飯付き合ってあげようか?

 まだまだいけるよ~?」


「私の側にも近寄るなぁ!!」


親しくなるとグイグイ行くタイプの千夏から逃げる様に

薫は出て行った。

容赦なくそれを追いかける千夏も去ると

途端に部屋は静かになり、眠る治雄と立ったままの有希だけになった


穏やかな寝息を邪魔しないように彼女はゆっくりと

それまで薫が座っていた席に座った。

そこからは同年代の男子の寝顔がよく見えた


「普段見るわけじゃないから気付かなかったけど、

 前より...目の下のクマの濃さが薄くなったかな?」


問いかけるような独り言は、

強く吹く風でカーテンのなびく音でかき消された。


その窓からは広大な景色が顔を覗かせていた




「ふぅ~、食った食った~」


「全く、お酒を取りにいくだけのつもりが

 どんだけ食べたんだよ......」


「いいだろぉ? せっかく旨そうな料理が冷めちまいそうなのに

 誰もいなかったんだからよぉ~

 それに、強そうなワインの瓶もしっかりと置いてこれたしな」


「......兄貴、アルコール度数なんてちゃんと分かってるの?」


当然、ラベルに書かれているのは日本語ではないので適当である。


二人は眠った男の偽装のために酒を食堂から拝借することになった。

そこでは丁度、千夏と有希が出て行ったばかりで

誰もいない空間が出来上がっていたので調子に乗って、

淳は早食いながらもドカ食いしたのであった


「おめぇは食わなくて良かったのかよぉ?」


「密航するから事前に飯食っとけって言ってたのが

 そもそも、兄貴じゃん」


「あれ、そうだっけ?」


密航を一緒にやろうと弟に持ち掛け、

真面目な弟の説得のために丸一日を費やしていた淳は

しておくことのできる支度はしてあったが、

腹ごしらえはしていなかった。


「はぁ、こんなことしてて本当に良いのかなぁ

 今回こそは、と思ってたのにキッパリ断れなかった......

 挙句の果てに人に危害を加えることの手伝いまでしてしまった...」


「ヤマオにも同じようなことやったろぉ?」


「本当に反省してないんだね、兄貴。

 軽蔑するよ」


「おいおい、拗ねるなって!」


暗い貨物室へと向かう階段を下る途中で油断して大声を出す男の

真横の壁に何かが叩きつけられ、二人はギョッとした。


「遅いッ!!

 何かあったのかと不安になったじゃない!」


「ああッ!

 投げたの俺の荷物かよッ!!」



物騒な出迎えに一慶の溜め息は増々大きくなるのであった。



「ん? もしかしてだけど......今、俺達のこと心配したって

 言ってくれてたのか?」


「え? そんなまさか――」


「まさかそんな訳ないでしょ?

 アンタ達が捕まったら、特にデカいアンタが私のことまで

 泣いて自供しそうじゃない」


「......そう」


心配してたのは我が身だけだったのね、と


ツンデレの反応を期待していた淳の心は

温かな料理も驚くくらいに急速冷凍された。

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