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夏休み編・7

そうして、作戦は始まる。

何か金具を見つけたのか、金属が打ち合う音が辺りに響く。


影の人物はそれに気づいて、好奇心に負けて

吸い寄せられるように近付いていく。


「いいぞ~...! 一慶!」


「黙って」


事は順調に進み、美咲も物陰からゆっくりと出て

いざ、というところで思わぬ事態が起きる。


「あ、そういえばこれがあったな」


そう言って何かを取り出した目の前の人物は男だった。

それが分かったのは、光が灯ったからだ


照明が点いたのではない。

まさかの懐中電灯を持っていた。


照らされた先の一慶はもちろん、まだ男まで数メートルある中

光を向けられれば丸見えの状態の美咲は驚きのあまり、

逆に意識を飛ばされそうになった。


「間違って入っちゃった動物かな? おい、出て来い」


無論、出て行けるわけはないが

一慶はどうすべきか考えた。

どうやら相手は猫か何かとも思っているようだ。

最悪、警戒を解くために声真似でもするかと悩んでいると

別の声が響いた。


その声は男の警戒レベルを最大限に引き上げるような声。


淳の暴発くしゃみだった


「な、なんだ! 誰かいるのか!」


叫びながらライトを向けた方向は

先ほどまで美咲がいた位置だった。

背後に回ろうとする動きが功を奏し、

ギリギリのところで発見を回避した


それでもほんの少しでも光を左に向ければ、

壁に張り付く無様なJKの姿がお目見えすることになる。


淳の行動に鬼の形相で怒りを露わにしているので、

発見された方が楽に気絶させられるのではないかというほどの

怒りっぷりが呼吸に出ている。


そんな様子を注目を外れた一慶は頭を出してみていた。

兄も心配だが怒り心頭の彼女に関しては、これを切り抜けた後も

恐くなってきた


予定とは違って美咲がターゲットに近付くのではなく、

美咲の横を目標が通り過ぎて行く。

皮肉にもさっきの仕掛け場所の推定位置よりも開けた

絶好の空間であった。

苛立ちも力に変えて飛んだ


強く両足で踏み込んだ音は研ぎ澄まされた男の耳に入った。

ライトは向けられる。

しかし、そこにはもういない


「ンンッ!!」


上空からの怒気の籠った奇襲を声も上げられずに、

まともに喰らった。


不幸な男はその場に倒れ込んだ





「ああッ!!」


「うおッ! どうした、ハル!?」


美咲にスパイクをぶち込まれる寸前に目覚めた。

なんと臨場感のある夢だ。

本当に起ころうとしていたことのように迫力があって、

まだ手が震えている


「おお、ハルよ。

 そんなに震えてどうしたのだ。

 今、私が抱きしめてやるからな......」


動けずにいることを良いことに抱き着かれているが、

振り払う気力も無い。

現実もまた悪夢のようなもの、

思い返せば想い人に好かれることはないのだ、という事実が

また目の前を暗くする。


「あれから山崎君、大丈夫......って」


そして追加で悪いことは起こる。


無気力な自分が強く抱きしめらている姿勢はまさに、

お互いに愛し合っているかのような状態に見えたことだろう。

丁度、心配で来てくれた彼女は最悪のタイミングで現われた


「ご、ごめんなさい......」


角田さんはいけない所を見てしまったのかのように、

顔を隠して去って行った。


「あら、やだ。

 お見苦しい所を見せてしまったわね?」



わざとらしさと嫌らしい笑みを含む女しか傍にいないこともまた現実、


精神の防衛機能は三度目の気絶を選んだのであった。

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