夏休み編・6
淳の相貌での驚きの表情はかなり滑稽であったが、
事が事だけに笑う者などはいない。
「ま、マジかよ......」
「そこまでしなきゃいけないのはアンタのせいなんだからね」
「え、オレ?」
自分を指差す兄に弟は素早く説明する
「兄貴はもしかしたらさっきから物陰に隠れられてるつもりかもしれないけど、
ハッキリ言って丸見えだから」
そう聞くと白目になったように大げさに驚愕するのであった。
実際、淳の身体は大きい上に柔軟性がないために上手く屈めていない。
十分に隠すにはスペースが必要であるが、今から移動したのでは
気付かれてしまう。
「今は暗いからいいけど、あの人に明かりを点けさせたら一巻の終わりだ。
その前に......」
「おいおい!! 一慶までマジになってそんなこと――」
「「シッー!!」」
美咲と一慶は同時に口の前で人差し指を立てた。
二人の意気がピッタリで、同じ気持ちであることは
鈍い淳でも分かった。
いよいよ彼の覚悟一つで、作戦は動き出す
「別にアンタが出て行って、他に密航者はいません
とか言って犠牲になってくれてもいいのよ」
「えぇ!?」
「そんなの嫌だろ、兄貴?
仕方ないんだ。 さあ、やると決めてくれ」
「う、ううむ......」
この三人で真っ先に悪事を働きそうなのが淳であるが、
一番最後まで渋っているのが淳だった。
幸運にも影の人物が先ほどからまるで照明のスイッチを探せていない間に、
答えは出た
「わ、分かった。
やるしかねえんだな?」
「......うん」
「じゃあ、どう動けばいいか一度しか言わないからしっかり聞いてなさいよ」
早速、美咲はプランを伝え始めた。
「まず、一慶とかいうアンタ。
存在感が薄いから、この中で一番動きがあってもバレにくいだろうから
ここから離れた所まで行って適当に音を出すなりして注意を引いて。
その際、決してまだ人間がどうか分からない程度の音にして。
つまり、声とかは駄目。
通信機で他の仲間に連絡を即座に入れられる可能性がある」
「う、うん」
かなり厳しい注文であったが、
的確な指示だと納得し了承した。
「そして次にアタシの番。
前にデカいアンタをやった時みたいに、
アタックを奴の頭部に打ち込む。
不意打ちならこの中で一番上手く気絶させられるはず。
威力は十分だったでしょう?」
まさか感想を聞かれると思ってなかった淳は面食らったが、
「ま、まあな」
苦々しくも肯定した。
「よし、じゃあさっさと行って。
ちょっとわかりにくいけど、あそこへ」
美咲が示した方向へ、
一慶はサッと駆けて行った。
心配そうに弟の背中を見送りながら、兄は遅れて当然の疑問に気付く
「あれ? そういえば俺は何をすれば?」
「アンタはどんくさいから、気絶した後の奴をどこか人目のつかない場所に
運ぶ係でいいよ。
あ、でもアタシがしくじったら加勢しにきて。
一対一じゃ、当然女の子のアタシじゃヤバイし」
こんな物騒な作戦を考え出す女の子がどこにいるんだ、と
叫びたい気持ちを弟の邪魔をしないためにもグッと抑える淳であった。




