表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
107/274

夏休み編・5

「おい......二人とも、何か聞こえねえか?」


穏やかとは言い難い長い間の沈黙であったが、

せっかくの静けさを破った兄に弟は少し腹が立った。


「散々さっきから色々聞こえてるじゃん......

 たまに聞き覚えの無い音くらい――」


淳らしくもなく真剣の面持ちで黙って手で一慶を制した。

付き合いが長いからこそ、らしくない様子に自然と倣って黙った


「なにが聞こえたっていうの?」


文面を考えている美咲にとって、騒がしい男が

訳の分からないことを言い出したのは苛立ちの極みであったが

スマホを睨んだまま、問いを投げかけた。


「誰か来る」


短くも緊迫感のある一言に、

美咲もすぐさまスマホの明かりを消した。


それから数秒後、本当に誰かの足音が確かに聞こえ

影が現れた。

中々、室内に歩んでこないのは照明のスイッチを探しているようだった


「ど、どうしよう......」


「最悪、話し合った通り金でも払えばいいだろ」


不安げに囁く一慶に対し、

兄らしく安心させようと優しく諭す


「アンタら分かってないわね。

 こんなデカい船なんだから金で解決しようとしたら、

 どれだけ持ってかれると思ってるの?」


そう現実味のある見解を聞くと兄共々、

二人の顔は薄暗い空間でも分かるくらいに青ざめた。


「この際、仕方ないからアンタたちもアタシの作戦に加えてあげる。

 いい? この船の行先がどこかなんてハッキリ分からないけど、

 お金持ちのアイツのことだから、

 きっと苦労するような島には行かないはずよ。

 つまり、極端に人が少ない又は無人島なんてとこには行かないはず。

 ならアタシ達がそこに上陸して先に島内部まで進んで待ち伏せて、

 旅行で来ていたという体で偶然、合流を計って

 強引にでも同行を許可させれば、帰りは堂々と

 この船に乗って行けるのよ」


この時点で頭の回転の鈍い兄はいつも以上に顔面が歪んで苦悶しているが、

弟は聞かされた計画に一つの疑問が浮かんだ。


「な、なら......ここでバレたらその作戦は破綻するんじゃ?」


返答は未だスイッチを探せずにいる人物を、

覚悟の籠った瞳で見つめる彼女の表情から一慶は読み取った。

読み取ってしまった


「ま、まさか......」


「え、何だ? どういうことなんだよ、一慶」


一瞥もせず、美咲は言った。


「ソイツに教えてやって。

 アタシ達三人がしっかり連携しなきゃ、上手くは行かない」


彼女からは強い意志を感じた。

元々独りでこの状況になっても、

その方法で切り抜けるつもりだったことを感じさせる決意があった。

誰にも打ち明けず、両親に迷惑を掛けてでも、手段を問わずとも、

何かを成し遂げようとする意欲があることだけを一慶は悟った。


それに応えるように同じく密航者として、

同じだけの決意を抱かねばならないことを彼も心に決めた


一呼吸おいて相変わらず首を傾げる兄に手短に伝えた。



「僕らで協力してあそこにいる人の意識を飛ばす。

 兄貴も覚悟を決めて」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ