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夏休み編・4

角田さんとの仲を深めようと意気込んで参加したというのに

序盤で出鼻をくじかれてしまい、精神が酷く落ち込む。


そういう時は病気で寝込んだ時のように嫌な夢を見る。

自分の心の底にあった負い目が姿を現し、責め立てて来る。

それは何か、誰なのか?


糸田兄弟と幼馴染であった。

何故連れていってくれなかっただの、

何故教えてくれなかっただの、やいのやいの言われる。


ああ、許してくれ......

君たちを連れて行っては穏やかな旅行ではなくなってしまうと危惧したのだ。

我が身可愛さで楽しみを犠牲にしないために、

犠牲の犠牲になってもらうしかなかったのだ


それともまさか、今起きている災難はお前たちの恨みが引き起こすのか。

因果応報だというのか......




うなされる治雄の悪夢の人物は遠く離れてしまった陸地にはいなかった。

もっとずっと傍にいた。


当然も薫たちは知らない。


大型客船の底の方、暗くも機械のシャカリキに働く音が辺りから響く場所、

貨物室にいたのである。



「案外、バレねぇもんだな」


「しっ! 足音が拾いにくいんだから黙って」


当然、三人とも密航である。


「こんなに暗いんだから、明かりか何かついた時に黙ればいいだろうがよぉ

 そもそもこのうっさい音があるから話声なんて分からねえさ」


「アンタは本当に呑気でいいわね......

 まさか、考えることが不良と同じとか嫌すぎるんだけど」


「なんだとぉ!?」


「まあまあ、二人とも落ち着いて......」


一慶の心労はかさむばかりである。

薫と淳の仲は喧嘩しながらも、放っておいて良いレベルだが

美咲とでは一触即発といった雰囲気だ。

三人が遭遇した時、真っ先に美咲は淳を殴りかかろうとした。

一慶が存在感を振り絞って二人の間に割って入らねば危なかった


「米田さんはいつ、この話を聞いたんですか?

 僕は兄からですけど......」


とりあえず、口喧嘩がデッドヒートする前にトークで

場を和ませることにした。


「......廊下で聞いたのよ。 

 三人で話してるとこ」


「なに!? お前もあの時いたのかよ!」


「いちゃ悪いっての?」


「いえいえ悪くないですよ!

 ちょっと兄貴は黙ってて......!」


あの場にいた廊下の影は淳以外にも美咲がいたのであった。

必死に今の経緯に至るまでの詳細を聞き出す方に、

話題を一慶はすり替えて行く


「よ、よくそちらの親御さんは許してくれましたね......

 僕らなんかは兄弟でよく出かけるんで、

 長い間家を空けるって言っても適当に返事を返されるだけですけど」


「ふーん......あんまり親に興味を持たれてないのね。

 兄弟ってそういうものなの?」


「おい、そりゃどういう意味――」


「そうかもしれません!」


すぐ口を大きく開こうとする兄を頑張って止める弟、

生憎それの味方をしてくれる人物は誰もいない。


「......アタシは港近くのとこまで旅行に行きたいって言って、

 勝手に抜け出て来ちゃった」


「え...」


ただ、ここに来て美咲が沈んだ調子で事実を告げたことによって

兄弟は目を見合わせて場が静まった


「両親に何か言ってきたんですか......?」


「はぁ......だから困ってるのよ。

 何て連絡を送ったものか」


「道理でしきりにスマホを覗いてると思ったぜ......

 ここにいるのがバレたくないくせに」


淳の余計な一言に一慶は肝を冷やしたが、

美咲は消沈したままだった。

本気で悩んでいる様に、空気は更に気まずさを含むだけであった



そんな中、誰かが貨物室に迫って来ていた。

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