夏休み編・2
楽しそうな二人がいる船頭とは反対に船尾まで来てしまった俺達は、
とりあえず手すりにつかまって小さくなっていく陸地を眺めていた。
彼女との間には沈黙が続いていたが、
吉沢さんの本来の性格が快活系よりかは大人しいタイプだと分かると
さして静けさは気まずさではなかった。
話題も捻り出せないエスコートできない駄目な男かもしれないが、
自然と彼女が話し出せる空気を作る方が良いと判断した。
そして遠近法で手に乗せられるように見える程度だった陸地も
遂に見えなくなると、吉沢さんは口を開いた
「実はね、エリーちゃんと仲良くなりたいの」
まるで小学生のような子供っぽい願いだったので
想い詰めていた顔を思い出して、つい吹き出してしまった。
「こ、こんなこと言い出すなんておかしいよね......」
「い、いやいや! ごめんごめん。
全然変じゃないよ!」
弁解が役に立ってないかのような暗い顔を見て、
咄嗟にフォローする
「勇気いるよね。
慣れないもんだよ、小さい頃から友達を作ろうだとか
仲良くしようとするのってさ」
うな垂れた顔が少し上がり、
視線だけはこちらを向いている
「俺も最近は諦めてたもん。
実は俺、晴れて今の高校入った訳じゃないからさ。
もう気力も無くなっちゃって......
最悪、話し相手には兄弟がいるし―――」
「兄弟いるの!?」
先ほどまでの落ち込みっぷりが嘘のように元気な声と
輝く瞳が迫ってきた。
気持ちが昂ると接近する癖があるようだ
「う、うん」
「何人!? あ、妹いる!?」
ドンドン近付いて来られると余裕ある男を演じられなくなるので
止めてほしいのだが、密着を解いてくれない
「いるいる! 一人いるよ!」
彼女の瞳に吸い込まれないように上を向いて叫ぶ。
すると気が済んだのか、恍惚そうに独り言ちている
「いいなぁ......会ってみたいなぁ」
何だかとっても愛らしい妹を想像なされているようなので
とりあえず忠告を挟む
「えっと......そんな、もう吉沢さんと変わらない大きさとか
歳だったりするし、考えてるほど可愛くは...ないと思うよ?
何ならうちの妹の不愛想を見せたいくらい――」
「会わせてくれるの!?」
今度はこちらに体重がほぼ乗ってきそうな勢いだ。
抱きとめるわけにもいかず、イナバウアーで耐えている
「あ、会いたいなら......どうぞ」
「約束だよ!」
また嬉しそうに空を見上げて何か呟いている。
そんな姿を見ていて、息を切らしながら考え込んでみると
一つ、イイ線いってる憶測が頭に浮かびそうになる。
何かハッキリとした過去があるわけでもないのに本能的に
彼女を避けている節がある花山、
やたら妹、というワードに反応を示している様子......まさか
「吉沢さんって、小さい女の子が好きなの?」
「え、な、ナツってロリコンに見える?」
途端に上機嫌が萎んで、恥ずかしそうにされると
こっちまで恥ずかしくなってしまう。
どうやら予測は外れていたようで顔が熱くなる
惜しい、ような気がするのだが......
「まあ、アイツと仲良くしたいって言うなら協力するよ」
気を取り直して、それだけは心得たことを伝えると
吉沢さんは安心した笑みを浮かべてくれた。
あれが至近距離であればドキドキ的に危なかったかもしれない。
クールになるために、自分も彼女に協力を依頼するのであった
「俺も角田さんと話したかったりするしさ、
二人に会ったらお互いを交代する感じで......?」
自然にお願いした気がしたのだが、
明らかに吉沢さんはニヤついている感じがした。
「もしかしたら、ナツと一緒であの二人......
というよりかは特にアキちゃんに話しかけられなかった感じ?」
他人のこととなると鋭い彼女の問いを紛らわせるために
花山達の元へ先導するようにして、無言で背を向けながら
情けない赤面を隠すのであった。




