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夏休み編・始動

「むゥ......結局四人になってしまったか」


花山は不満そうにぼやいた。

結局のところ、吉沢さんも同行が許されたのだ。

何故か花山は同行に反対していてが、理由はハッキリとは分からないそうだ。

二人に何があって戦っていたのか増々謎が深まるばかりである。

アイツが隠し事をするほどとは......


どうあれ、吉沢さんがめちゃくちゃ嬉しそうなので万事OKだろう


「できることなら、ハルと二人だけでこの船に乗船したかったなぁ......」


「角田さんはお前が誘ったんだろ......感謝してるけど。

 それに、

 二人で乗るにはこの船デカすぎだろォ!!」


見上げなければてっぺんまで見えないほどの大型客船だ。

港を占領するかのような優に100人単位で乗船できるほどのデカさだ。

人数が増えてなかったら、これを二人占めするつもりだったとは

金持ちは恐ろしい。


「あ、今あの女をチームに入れてはならない理由を思い付いたぞ!

 奴からは泥棒猫の匂いがする!

 アキはそんなことしないだろうが、ナトゥとかいう女は

 私からきっとハルを奪うつもりだ!」


「思い付きの理由で意地悪するなよ......

 それにこんだけデッカイんだからクラスメイト全員呼んでやっても

 良かったんじゃないか?」


「ふん、冗談じゃない。

 誰がハルを奪うか分からん。

 女にばかり警戒していたら男に寝取られるかもしれん!」


「ねえよ」


早速乗って見ると明らかに、余計な広さであることを痛感した。

花山財閥は娘のためとは言え、何を考えているのか


「この小船はだな、ほんの少し前まで現役で客をたくさん乗せていたのだが

 ちょっとした故障が発見されて、大事な客に不安が募るといけないから、

 ということでさっさとセールに出されてたんだ。

 結構、安かったぞ」


「安かったって......」


「安心しろ、故障はしっかりと直してある」


「心配なのは改めて、お前のことだよ......」


こんな甘やかされ方をしていいのかコイツは......。

ここは一つ説教でも、と考えたが

何から言ってやったものかも分からないほどのスケールに

溜め息が出るのみだった。



クルーは最小限の人数に留まり、

ひたすらに無駄な広大さを知らしめつつ船は出発した。


さて、流れ行く海の景色でも眺めながら

優雅に角田さんとバルコニーで語らいたいと思い立って彼女を探すが

まず、広すぎて迷う。


その間、入念にイメージトレーニングは欠かさない。

いつの間にか空想の中では彼女の肩を抱いて、ダンディに話している。


「ダメだ、駄目だ。

 そんなことしちゃいけない。

 俺にそういうことが出来るかもしれないとはいえ、

 彼女は憧れの存在なんだぞ」


そうして出来もしないことを呟きながら歩いていると

ほぼ空想通り、夏の日差しに当てられ

風に美しい黒髪をたなびかせる彼女を遠くに見ているだけで、

硬直してしまった。

到底、近寄ることも出来なそうだ


そんな中、あっさりと花山は角田さんの隣に跳ねるように駆け寄り

楽しそうに談笑し始めた。

そういう所だけは尊敬に値した、そもそもアイツは男じゃないが


ただ、こんな情けない自分に仲間がいるとは思わなかった。

どうやら同じく日陰から羨まし気な視線を彼女たちに向けるものがいた。

吉沢さんだった


「やあ、どうしたのこんなところで?」


己の立場を考えれば、とても言える台詞じゃないが

平静を装って余裕な感じで話しかけた。

吉沢さんは観察に夢中だったようでビックリしていた


「あ、治雄君......」


「吉沢さんも行ったらどう?

 俺はガールズトークに混じることはできそうにないしさ」


「え、あ、うん...そうしたいのは山々だけど......」


どうやらもじもじしている感じだ。

どこか引っ込み思案な昔の自分を見るような想いがして、思わず言ってしまった。

今も角田さんの前じゃ昔の自分になってしまうことは忘れて。


「じゃあ、今は俺の話に付き合ってよ。

 一人でいると、アイツに茶化されそうだし」


「......うん」


彼女にも何か事情があるのだろう。


この機会に自分の知人同士に

わだかまりがあるのはどうにかしたいことでもあるので、

半ば強引に彼女を他の日向へと連れ出した。

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