表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/274

夏休み間近・5

そう、千夏にとって聞きたいことは多かった。

道着を一度着てしまうと人格を乗っ取られたように記憶が飛ぶため、

薫本人に聞くわけにもいかず治雄から聞き出そうとしていた。


「それにしても、吉沢さんも英語苦手だったの?

 勝手にどの教科も出来る人だと思ってたよ」


治雄にとっては何てことのない質問を投げかけたつもりであったが、

千夏にとっては鋭い質問であった。

薫たちが部活探しで勉強期間を潰している中、

千夏もいつ来ることかと気が気でなかった。


どころか捕らぬ狸の皮算用で、テスト前までには薫と仲良くなっている

計算だったので唯一彼女が得意な英語を教わることで更に、

親睦を深めようとしていた。

そうした計画に、まさか後回しにされてテスト直前になることを予期しなかったどころか

仲良くなれずに終わってしまうなんて可能性を考慮していなかった。


結果、今回の難易度もあって治雄と同じく英語だけボーダーを超えられなかった。

などと正直に言えるわけもなく、


「そ、そう! ナツも苦手だったの......」


明らかな動揺を見せて苦し紛れに嘘をついた。

治雄が鈍感系でなければ追求されるところだった。

間髪入れずに千夏は質問を繰り出し、ペースを自分のものにしようとする


「そう考えると治雄君も英語が苦手なんて意外だなぁ~

 いつもエリーちゃんと一緒にいるから教わってるものかと」


少しでも薫を絡ませた話題を展開して、

解明の糸口を手繰り寄せて行く


「いやいや、アイツは確かに英語だけは得意だけど

 きっと他が悪いのにも理由があるように教えるのも下手さ。

 まあ個人的にアイツに教わるのも何か癪だしなぁ」


薫が英語が得意というよりかは、

英語以外が出来ないという情報を新たに知り

メモに走り書きをする。

これは反対に彼女に教える役を買って出ることで交流を果たせるのでは、

と興奮で行動が出てしまった。

そのあまりの勢いを見逃す程、治雄も鈍くはなかった


「えっと......そういえば、この前拳法部に

 アイツがお邪魔した時あったじゃん...?

 何があったか、教えてくれないかな?」


千夏の手はピタッと止まった。

治雄自身気になっていた事柄だったので、

目の前で薫のことについて執着している様子を見せられて口に出さないわけにも

いかなかった。

しかし、千夏自身何か言えるわけがない。

何を隠そう、彼女も薫と何があったのかを知らないのだから。


「んんっとォ~......あ!

 そういえば、君も来てくれたんじゃなかったけ?」


何とか論点をずらす。

質問を質問で返す、国語教師も激怒するような切り替えしは

それでも有効だった。


治雄も実際あの場にいたことは事実だ。

しかし薫と一緒に、または同じくしてしっかりと入り口から入った訳ではなく

裏道からの覗き見だ。

それがバレていたというのか?

という治雄の痛い部分を偶然にも突く問いかけとなった


「ああ、うん! そうだね、変な質問だったねアハハ......」


二人に微妙な空気が流れた。

お互いの心理の中に違和感があり、疑いがあった。

それが千夏にはハッキリとは分からなかったが、

治雄は何となく理解したことがあった。


これ以上、薫と千夏の関係性に口を挟むことは止めた方が良いということ。

治雄は悪い人間ではなかったが、事なかれ主義であった。


「そ、そうだ!

 良かったら今度アイツとかと一緒に旅行行くんだけど、

 吉沢さんもど、どうかな?」


「え?」


そして己の窮地を脱するためには考え無しに適当を言う男でもあった。

きっと旅行中に薫と千夏の仲が良くなるきっかけになるだろう、と

今脳内で言い訳を作った


「予定が合えばで平気だからね?

 無理強いはしないよ? 結構夏休みの時間を取られちゃうかも――」


「行く!」


自分がかなり出過ぎた申し出をした、と感じて

治雄が控えめに言い直そうとしている途中に

千夏は力強く返事をした。

彼女にとっては願っても無いチャンスだ


「お願い! 連れてって!」


前のめりになって両手まで彼女の両手で包まれては、

チェリーボーイ治雄は汗かき赤面してデレデレにならざるをえない。


「う、うん。 花山に強く掛け合っておくよ......」


こうして期せずしてあざとさで千夏は同行推薦を勝ち取った。

本来の薫についての情報を聞き出す目的は放棄していたが、

それも必要ないほどの機会を彼女は手にした。

これから自ら薫にアタックをしていくことだろう。


こうして主催が知らぬ間に話は膨らんでいくのである

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ