通常の午前
「はあ、今日もか...」
というため息で俺の学校の朝が始まる
見つめた隣の席は今日も空席であることが
担任の朝礼からいつもの
「お家の都合上、ご出席なさらないそうです...」
がホームルームの定番の締めくくりで確定した。
そうなると大抵
「では、今日もお願いしますね」
と担任の先生からその休み続ける奴の分の連絡プリントを貰わなければならない。
俺は高校1年の山崎 治雄。
県立の高校を受かろうと躍起になっている時に丁度、
近くにどデカイ家が建ち始めて何事かと思ったら、
どうやら大企業の社長さんご一家が拠点移設とやらで
より良い土地を求めて転々としているコースにうちの地域があったらしく、
それが運の悪い事にうちの隣の大きな空き地をご所望になったらしい。
昔は小学生の仲間と野球が出来るくらいには広かった土地が
あっという間に豪華絢爛な家が出来始めた。
それもスピードを売りにしている建設業の所に任せたもんだから
毎日毎晩うるさくてたまらなかった。
だから俺は県立の受験に対しての勉強に身が入らず、
入りたくも無い滑り止めの私立に入る羽目になった。
そう思って今までの私立高校生活を送ってきた。
だから隣の席の奴の手紙を毎日毎日届けられさせられるなど
「もう、うんざりだよ...」
そう顔を突っ伏した。
望んだ青春ライフなど無く、
進学校だからといって勉強に明け暮れ、
家に帰って少しのリフレッシュとしてやるゲームをしているのを母親に見られると、
「私立に通わしてるんだから、大学くらい国立に行ってよね」
を、何回っ!聞いたことか...!!
そうこんなことになったも全て、全て、全てこの隣の奴が......!
「どうしたの、ハル? 寝不足?」
聞き覚えのある声が聞こえてきた。
顔も上げず答える。
「毎日その寝不足でいるのと気分は変わりゃしないよ...」
「そうねえ、ハルはいつも目の下にクマが出来てるもんねえ~」
「これは生まれつきそう見えるだけだっつーの!」
そう怒る俺をコロコロと笑うのが腹立たしい左隣の金持ち家とは反対に住む、
幼馴染の米田 美咲だ。
俺は地元っ子だがこいつは一昔にここら辺の土地が
飛ぶように売れた時に引っ越してきた女だ。
何故か誕生日が一緒だ。
小学一年生の時の通学する初めての朝に登校班の時知り合った。
それで誕生日が一緒のことが分かると
「これってウンメイってやつね!あたし、知ってる!」
とか何とか言って男勝りの性格から色んな公園を冒険と称して引き回されたものだ。
お前は運命共同体なんだって感じであったのだと思う、うん。
当時はそれでも身長が小さくて可愛らしい妹のように一人っ子の俺は思っていたが
今では俺とほぼ変わらない背丈にもなって、
街中で見かけると別人なくらい......
なんというか、女らしくなっている。
そうして声なんか掛けると
「だ、誰かに一緒にいるとこなんて見られたらどうすんだよ!」
とか言って俺から逃げる。
それであって学校では友達も多くいる癖して俺に関わってくるのだから、
訳が分からない。
「ああ、また隣の子来てないんだ~」
事情を悟った美咲は自慢げに腕を組んでいそうだ。
「そうだよ...ったく親はどういう育て方したんだ...
いや、その親に問題があるのかっ...!」
すぐこの手の話になると熱っぽくなる俺を美咲は知っていて、だいたい話を逸らす。
「...そうだよね~、なあんで来させないんだろうねえ~」
それが今日は打って変わって追及してきた。
「...なんかそいつだって女子なんだから、
お前のたくさんのお友達の内の誰かが知ってるんじゃないのかよ?」
顔を上げて質問してみる、意外にも美咲の表情は真剣だ。
「え? いや~...あんまりそのお金持ちの子のこと...?
とか話題にしないんだよね~」
「...まあ、それもそうか」
不毛な質問であったかとまた顔を下げた
「ん?おやおや~? ハル君はその子のことが気になるのかな~?」
そう浮ついた声を耳元に近づけてくる
「そんなわけあるかァ!あっち行きやがれ!!」
そう横に振った手をスッとかわしてニコニコとした顔で廊下に消えていった
「はあ...」
頭に手を置く、
また今日もあの家だ......
そう思いながら腕に顔を埋める。
しかし、やけに周りが静かなことにまた顔を上げると
美咲との会話で移動教室であったことを忘れて
教室内が誰もいないことに気付く。
「あ、あのやろお...!!」
変にちょっかいを出してくる時は決まって、
何かしらの意図があってやって来る。
急いで勉強道具を机から引っ張り出すと他の椅子にぶつかりながら
教室を後にした。
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