【第三章―教室】
さっそく創作意欲がなくなりかけてます。
【第三章―教室】
シャワーを浴び、朝食を簡単に済ませた僕は、家の駐車場に止めてある愛車、もとい自転車の鍵をカチャリと開け、肌寒い朝の空気を頬に感じつつ学校を目指す。
学校に近づくにつれ、僕の顔は表情や感情といったものを失い、”他者”と接するための
偽りの僕になっていく―。
僕は人に素を見せることを恐れ、嫌う。それは半分反射的にしている行為なのだ。
過去の鎖は僕の中にいくつもの影を作り、その影を接する相手によって変える―。
僕が通っている高校は、自転車で20分ほど行ったところにある。
学校は山の中腹に建てられており駅も近くに無い為、ほとんどの生徒が自転車で登校している。
中には家から1時間自転車を漕いで登校している奴もいる。
冬の今頃の時期は、あたりの畑に霜が降り、朝日を浴びてキラキラと白く澄んだ光を、冷えて赤く染まった生徒の顔に投げかけている。僕はこの景気が嫌いではなかった。
しかし、学校という、他者から形成される集団に向かっていると思うと、どうしても好きになることができず、キラキラとした光は少し鬱陶しいものに感じた。
駐輪場に着くと、張りのある元気な挨拶が聞こえてきた。
「よっ、将介。今日も機嫌悪そうだな。」
「うっせぇよ。いつもと変わらん。」
大きな体とは対照的な、人懐っこい顔の男子が一人近づいてくる。
こいつは僕が所属している空手部の主将で、名前を藤堂優佐久という。こいつは僕の”素”に限りなく近いものを見ている唯一の人間だ。
僕は、なぜかこの藤堂にだけは、心を開いてもいいと思っている。彼には、人と打ち解けるオーラのようなものが出ている気がした。
しかし、やはりそれが怖い僕は、影を薄くはするものの、完全に素は見せていない。
そんな藤堂と適当な話をしつつ教室に入ると、すでにほとんどの生徒が登校を完了し、授業の準備を始めていた。僕は残念なことに、前回の席替えで一番前の席をひいてしまったため、席に着くまでに何人かの生徒にぶつかってしまった。
やっとのことで間をすり抜け、席に着くと後ろの席に座って本を読んでいた早見涼子がおもむろに顔を上げ、声をかけてきた。
「おはよう壁谷君。」
彼女は去年も同じクラスで、たまに軽く会話をする程度の関係だったが、最近席替えで隣同士になってからよく声をかけるようになっていた。
「あぁ、おはよう早見さん。」
僕は適当に挨拶を返し、そこで会話を終わらせようとした。
いつも思うのだが、なんで、この早見という子は僕に話しかけてくるのだろうか―。
面白い話どころか、無愛想で適当な相槌しか打っていない僕に。
話を終わらせそうに無い早見さんに、いつもどおりの適当な相槌をウンウンと打ちながらも、僕はまったく別のことを考えていた。
昨日見た夢のことについて―。
あれは僕が小学4年生の誕生日の出来事だ。忘れるはずも無い。
あの日を境に、僕は、僕という人間は、人間を信用することを忘れてしまったのだから。
「ねぇ壁谷君、大丈夫?」
昨日に意識を飛ばしていた僕を、心配そうに見つめる早見がいた。
「あぁごめん。ちょっと気分悪くてぼーっとしてた。」
「気分悪いの?!無理しないほうがいいよ!」
「別に大丈夫だから。」
そう言ってもまだ心配そうに見つめてくる早見にもう一度大丈夫だということを伝えると、少し納得がいかない様子ながらも引き下がってくれた。
「あっ、そうだ壁谷君。壁谷君の家にパソコンある?」
見事なまでにタイムリーな質問を投げかけてきた早見さんの目は、よりいっそうキラキラとした無邪気な輝きをもっていた。その光は、僕にはとてもまぶしすぎて思わず顔を伏せてしまった。
「一応もってるけど、どうして?」
「あのね、壁谷君頭いいでしょ?私頭悪いから、その、勉強をおしえてほしいの。」
勉強を教えることと、パソコンが家にあるかという問いの関係性がまったくわからない。
「でも何で勉強を教えるのにパソコンがいるの?」
「あのね、無料で通話できたり、ファイルを送ったりできるソフトがあるの!それを使えば、家に帰ってからも話を聞きながら勉強できるじゃない?」
それからしばらく、その無料で電話ができるソフトの説明を熱心にされたが、僕はいまいち乗り気じゃなかった。
仲良くもない早見さんと、1対1の通話など、到底僕に耐えられる行為じゃないとわかりきっていたからだ。
何も反応を示さず、ただジッと話を聞いているボクに、どうしてもその”ソフト”に興味を持ってほしいのだろう、
早見さんの説明はもはや街頭演説をする政治家のように僕にそのよさを伝えようとしている。
熱弁を止めようとしない早見さんに困り、どうすれば止めることができるのか考えていたが、どうやら僕から何かしなくてもいいようだ。
廊下からスタスタと足音が近づいてくるのが聞こえ、まもなく教室のドアがガラッと開き、大柄な体の担任が入ってきた。
担任が入ってきたことにより、早見さんは演説を中断するしかなく、少し残念そうな顔を見せて、また後でねと一言声をかけてから乗り出していた身を引き姿勢を正した。
その後はいつもどおり、1時間目から昼休みまで永遠と寝続けた僕は、その後もソフトについての演説を続けようとする早見さんを振り切り、いつも一人でいる屋上に向かった。
乏しい才能を振り絞りがんばります。