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片道ロケット少女

 お元気ですか。

 私は元気です。あれから変わりなく暮らしています。


 そちらは、今頃桜の季節でしょうか。少し前までは通信回線が生きていたので色々なニュースをここでも見られたのですが、もう遠すぎてダメみたいです。最後に桜を見たのはいつだったっけ。……そうそう、入院する少し前でした。

 私が、ごく普通の中学生として過ごした、最後の春でした。


 あの頃のことを思い出すと、いつだって胸が甘く締め付けられます。

 私はただのふつうの中学生で、容姿も学力も人並みで、握力が女子の平均をうんと上回ってしまったのと足のサイズが大きいのが悩みで、どうしてもっとか弱くかわいく生んでもらえなかったかなあなんて、小さな不満をいくつも持っていながらも、幸せに暮らしていました。

 今日の続きに間違いなく、平穏な未来が待っていると、信じて疑わぬこどもでした。


 健康がとりえの私でしたが、それゆえ病弱な人はどこかかっこいいように憧れたりもしました(バカですね)。ですから、入院することになって少し嬉しかったりもしたんですよ。

 でもまさか、自分が未知の病原体の宿主だったなんて、そんなとびきりのサプライズはいらなかったな。


 やたらと汗をかくしなんだか暑いなあ、という日が、春先なのに続きました。周りの人に『顔が赤いよ』と言われることが重なって、何の気なしに熱を測ると四〇度を超えていて誰より自分がびっくりしたのですが、おかしなことに食欲も体力も落ちたりはしませんでした。

 けれどいつまでも熱は下がらず、はじめは『体温計壊れたんじゃないの?』と笑っていた親にも心配され病院で検査を受けることになり、そこでも原因が分からないまま入院して、でも自分的には熱があるだけで倦怠感や痛みは感じないしすこぶる元気でしたから、入院するのって案外退屈なんだなあ、なんて思ってました。

 母親が、倒れるまでは。


 その後、私を担当していた看護師さんが倒れて、お見舞いに来てくれた友達がその次の日倒れて、同じ部活の仲間がそのまた次の日に倒れて。共通点は私、とお医者さんが発見した時にはもう、相当数の方が伏せっていたそうです。

 皆、長く苦しまないうちに天に召されてしまったということは、隔離された病棟に移されてから初めて知らされました。


 どうして、私だけが平気なんでしょうね。

 吐き捨てるように、幾人もの人にそしられた言葉――隔離されていても、窓の外から拡声器で罵倒されていた内容はしっかりと聞こえていました――は、そのまま自分にも疑問となって、今も残っています。

 どうして。


 今の医療では感染した人の根治は不可能で、それでいて病原体を宿しつつ私だけ元気に生きている、という図式はとても残酷なものです。私以外の人には迷惑でしかなかったでしょう。感染力がとても強いせいで、私は接触した人にもれなくウイルスをまき散らしてしまうのだから。

 すごく怖いけれど、死ぬことも少しだけ考えました。だって、自分が生きている限りかかわりを持つすべての人の命を危うくするなんて、そんなの嫌じゃないですか、普通に。

 だから、このロケットに乗せてもらった時は、本当にホッとしました。宇宙に脱出すれば、私が抱えているウイルスのせいで亡くなる人を、これ以上見ないですむって。

 もちろん、一人ぼっちのさびしさややりきれない思いはあるけど、それ以上に、私はもう人々に憎まれたくなかったんです。

 自分のことを、自分くらいは好きでいたいんです。


 雨の日でした。見送りの人は少なく、みな防護服を纏って、遠くの建物から手を振ってくれました。

 父は来ませんでした。当然ですよね、娘とは言え、自分の妻を殺した存在ですもん、私。なんなら打ち上げ失敗して、爆発してくれていいとさえ思いましたけど、そうするとウイルスを派手にまき散らしてしまうから、やっぱり成功してよかったんでしょうね。


 遠くへ。遠くへ。エンジンが動き続ける限り、地球から出来るだけ遠いところを目指して、私を乗せたロケットは星の間を飛んでゆきます。もしかして他にも宇宙を旅する有人のロケットや宇宙人に出会ったりしないかと、小さな窓ガラスにそっと触れて外を眺めながら一日の大半を過ごしますが、今のところまだ見つけられてはいません。

 残念です。


 いつか。それは今日とか明日とか、そんなにすぐではないと思うけど、動力と食糧(それに水)が尽きたら、ロケットはそのまま宇宙空間を漂う棺桶になってくれます。マルチに使えるなんてすばらしいですよね。

 でも、もし、地球に住む人たちが私を忘れないでいてくれて、いつかウイルスを抑制するワクチンを開発したなら、その時は宇宙の果てまで私を迎えに来てくれませんか?





 ↑むしのよすぎる願望ですね。今のはナシにします。


 さて、暇つぶしにメールを打ってはみましたが、よく考えたら作成したところで出すことは出来ませんし、受け取ってくれる人もいないのでした。

 なので、少し眠ろうと思います。地球を出る時にもらったお薬は、本当にぐっすり眠れるんですよ。

 次に目が覚めた時、ロケットはどこまで進んでいるのでしょうね。


 では、また。

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