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分からないは面白い

 今さらだけど、テレパシーってほんと便利。

 スマホをいじれない授業中でも『あ、今日は餃子が食べたいなあ』って母に念を飛ばせば、ちゃんと手作り餃子が夕ご飯に出てくるし、気になってる男の子に『すきかも』って念じれば『俺も』ってお返事が来て(『ごめん』バージョンの時もあるけど)、無駄にウダウダしてないですぐに付き合えるし。

 だから、能力ない人って不便だろうなあ、かわいそうにって思ってた。


 席替えがあって、隣には今まで話したことのない男子がやってきた。

『よろしく』

 会釈しながらいつも通りテレパシーを飛ばすと、軽く頭を下げてくれたものの、それ以外の反応がない。

 ん? って思って、『よろしく』『聞こえないの?』『ほんとに?』って、たてつづけに送ってみると。

『そいつ、非能力者だよ』って、後ろからテレパシーが飛んできた。

『え、そうなんだ』

『珍しいよな』

 二人してそんな風に何度かやり取りしていたら、隣から直接「こら」って声をかけられた。

「そこの二人、なんか今おれの悪口言ってたでしょう」

「悪口じゃねーし」とすかさず後ろの男子が答える。――ってか、え?

 何でこの人能力ないくせに分かんの? びっくりしてたら、後ろの子の方を向いてたお隣さんが、私に向き直った。

「確かにおれは君らみたいな能力ないけど、何言われてるかくらいはフツーに分かるかんね」

「え、すごいね!」

「すごいのは君らの方。そんなにしょっちゅうテレパシー飛ばしあってて疲れないの?」

「いや、それが当たり前だから特には疲れはしないけど……」

「おれもだよ」

「え」

「おれも、聞こえないのが当たり前だから、別に不便じゃないってこと。まあ、こそこそ悪口言われんのは気分悪いけど」

「だから悪口じゃないって!」

 あわてて言うと、「冗談だよ、甘蕗(あまぶき)さん」って、にやっと笑った。――案外、人が悪い。


 人が悪いお隣の席の夏焼(なつやき)君は、テレパシーは使えないけど勘とタイミングのいい人だった。

 なんだろ、『ちょうどそこにいる』感じ。いや、むしろ『すごーくちょうどいいタイミングでそこにいる』感じか。

 実例を挙げてくと、私が移動教室の時に階段でコケて落ちそうになった時ちょうど二段下に彼がいて支えてもらって落ちずに済んだりとか。自販機が釣銭切れ表示の時に一〇円玉がなくて困ってたら、『おれさっき購買でパン買った時のお釣りがオール一〇円だったから貸せるよ』って差し出してくれたりだとか。

 ――ほんとはやっぱり、テレパシー使えるんじゃないのお?

 そう念じてみても当然通じなくって、後ろの男子に『甘蕗さん何やってんの』ってテレパシーでツッコまれたあげく大笑いされた。

 笑わないでよ、私だって何してんのって自分で自分に呆れたいくらいなんだから。


 テレパシーを使えないくせに勘のいい人、っていうのは、なんだかすごく興味を引かれた。自分と違うからかな。そんな人が隣にいるのは、観察するのにちょうどいい。

 でも、ガン見しないでチラチラ見てても、休み時間に「甘蕗さん、何回もこっち見てたでしょ、授業中」って夏焼君には即バレしちゃった。

「だって気になって」

「……うん? 甘蕗さん、それどういう意味?」

「どういうって、えーとあれだよ観察だよ、ウォッチング」

「……ウォッチング」

 じーっとこっち見て呟かれて、何だか逆にこっちがウォッチングされてるみたいで落ち着かない。おかげで、聞かれてもいないことをペラペラしゃべっちゃったじゃないか。

「夏焼君は考え事する時あごを指でトントンするのがかわいいよね!」

「……かわいい」

「あとすっごい指キレイだけどピアノか何かやってるの?」

「……やってないけど」

「集中する時唇とんがるのってくせ?」

「ごめん、ちょっと、ちょっと待って」

 テンション低めに聞いてた風だったのに、なぜか急に顔を背けてうろたえはじめた夏焼君。どうしたどうした? って思ってたら、後ろの席の男の子がニヤーッとした。するとそれが見えてたみたいに、夏焼君はその子に向かって「余計なこと言うなよ! テレパシーも禁止!」って念入りに釘をさす。

「すごい、ほんとのほんとはやっぱりテレパシー使えるんでしょ」

「いーや。使えません」

 こっちに向き返って苦笑する顔は、もういつも通りだった。


 それからもウォッチングを続けていたら、だんだん分かってきた。

 私が見てると、もれなく向こうも気づく。

 見てませんよってポーズしてると、今度は夏焼君がこちらをじーっとウォッチングしてる。

 目が合うと、あたかも今、たまたま目が合いましたねみたいな顔で「何? 甘蕗さん」なんて言う。

『ねえ、これってやっぱりそうだと思う?』

 後ろの男の子にテレパシーで相談すれば、その子からは『その件に関してはテレパシー禁止令が出てるから答えられませーん』ってニヤーッとした顔がおまけで付きつつ(いらないけどね!)返ってくるし、そんなやりとりが聞こえないはずの隣の夏焼君には「また人の悪口言って」とちょっとムッとされるし。

「違うってばー」

「じゃあ何話してたの」

「……ないしょ」

 そ知らぬふりと照れ隠しではぐらかすと、もっと不機嫌さんになって唇がとんがるの、かわいいんだ。


 夏焼君は、なんかね、伏せたカードがたくさんあるみたいな感じ。テレパシーが通じないから、いちまいいちまい地道にめくって確かめるしか方法はなくって、でもその面倒くささと『次は何が出るかな?』っていうお楽しみ感と、違ってた時にもそれはそれでギャップが楽しい、そんなのがぜんぶ面白い。

 能力者同士じゃこうはいかない。予定調和の心地よさは、こんな予測不可能なびっくり箱みたいなお楽しみがないから。


 てか、夏焼君が好きなんだな私。

 わけも分からないまま目で追い始めて、お気に入りになって、かわいくなって、そしたら好きになっちゃった。

 当然、向こうはどうだか分かんないわけで。


 テレパシーは通じない。

 なら、何で伝えよう?

 面と向かって、お手紙で、LINEで、電話で。伝える手段はいろいろある。テレパシーがなくったって。

 でもとりあえず、お昼休みに念を送った。つよく。あの人なら、テレパシーが通じなくても、持ち前の勘とタイミングのよさで気持ちのかけらを受け取ってくれる。そんな気がして。


『夏焼君が、好きです』

 って。

 そしたら、後ろの席の男の子だけでなく、教室にいる人みんなが一斉にテレた。スイマセン、念強すぎて公開告白みたくなってしまった。そんな中、夏焼君だけが、ヘッドホンしてて周りの音が聞こえない人みたいに気付かない。やっぱ駄目かあ。

 ――と思ったら、聞こえていない夏焼君がなぜか急に顔をそむけて、「……ちょっと待ってよー」って言って立ち上がった。

 少し赤い顔した夏焼君は教室の扉のとこまですたすた歩いて、それから「甘蕗さん、こっち」って指で小さくおいでおいでをした。つられて立ち上がる。

 教室を出る時に振り返ると、後ろの席の男の子がアイドルみたく両頬を手で包んで「青春だあ」ってうっとりしてた。


 ずんずん早歩きの夏焼君。ちょこまか歩きの私はついて行くのが大変。

 どこまでいくの、って思ってたら、そのまま中庭に出た(人工芝が敷き詰めてあって上履きは汚れないから安心だ)。

 いくつか置いてあるプラスチックの椅子の一つを勧められて座った。夏焼君は、隣の椅子に。

「あのさ、」

「なーに」

「前に、おれを見るのは観察だって言ってたけど……」

「あ、撤回する。観察じゃなくなりました」

「……観察じゃない、とは」

『分かるでしょ』

 テレパシーで、見つめながら伝えたら、なんだか困った顔をされてしまった。

「……なんかこれ勘違いしそうなんだけど」

「どんな?」

 引き続き、じいっと見つめた。すると。

「……『すき』」

「!」

「だったらいいな、とか」

「えっ、いま心読んだんじゃないの?!」

「だから読めないんだって……え、」

 テレビの中継みたいなタイムラグののち、私の気持ちの二文字は夏焼君に言わずして伝わってしまった。

「おれ、テレパシー使えないよ」

「知ってるよ」

「そんなの不便だろ」

「不便じゃないって夏焼君が言ったんでしょ」

「いや、おれは平気だけど甘蕗さんが、」

「私が?」

「……使いたい時使えなくて困ったり、するんじゃないの」

「それはその時考えればいいんじゃないの?」

 ここにきてなんだか意固地な夏焼君をじいいーっと見てたら、「ほらまたそうやって人のこと見つめる」とそっぽを向かれてしまう。

「だって見たいんだもん」

「だからって観察しないで」

「観察じゃないってば」

「じゃあ、なに?」

 そっぽを向いたままの人の無防備なほっぺたに指先でそっと触れて、小さな小さな声でスキ、と告げた。とたんに、夏焼君は空気を全部抜かれたビーチボールみたくへなへなっとなっちゃった。

「おれに都合よすぎない? この展開」

「なんで? わかってたみたいだったのに」

「そりゃ、あんな風にじっと見られてたらテレパシーなんかなくても『もしかしたら』、って思うよ」

 そう言いながら、夏焼君はふてくされてる。

「どうして怒ってんのよ」

「だって、物珍しいから見てたんだろ俺のこと」

「はじめはそうかもだけど、それだけじゃないもん」

 階段でのことや、自販機でのことを持ち出して「困った時にいつも助けてくれる夏焼君のタイミングのよさもいいって思ってたよ」と伝えると、彼は。

「好きな子は目で追うし、動向チェックするからそりゃあタイミングも良くなるってもんだよ」と種明かし。ということはつまり、助けてもらった時にはもう既に、彼はこちらを。

 ――好きになるより、好かれてるって分かった時の方が、うんと恥ずかしい。


 あ、とかうぅ、とか意味不明の呻きを上げていると、「お昼休み終わっちゃうから、もどろ」と差し出される手。いかにも自分は平気ですよって顔してるのがひどく面白くなくて握力テスト程ぎゅって握ったのに、夏焼君は「いてえ」と笑うだけだった。


 それからも、夏焼君の勘とタイミングは対私に限ってはとってもよくって、ほんとのほんとのほんとは、テレパシー使えるんじゃないのお? って、照れ隠しに、まだそう思ったりしている。


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