日常2
朝のHRで美少女の転校生が来る事もなく、
授業中に隣の女子がそっとラブレターを渡してくるようなイベントもなく、
4月のうららか春の日差しをあびてたまに寝る事もありつつ、一日の授業が終わった。
授業が終わるとクラスメイトはグループを作って雑談する者や、大きい荷物を持って部活動
に行く者など、それぞれに自分の時間を使っていた。
さて、今日はどうしようか。
教科書をカバンにつめながら今日はどうやって時間を過ごそうか考えていると、
伊藤が近づいてきた、
「なぁ、”むー” 今日部活行くのか?」
あ、そうそういい忘れてました
僕の名前は一条 無益 愛称は「むー」と呼ばれている。
友人2名からしか呼ばれてないが。
この、高尾高校3年1組 普通科 技術部所属の学生である。
それはさておき、今日は部活という気分ではないので断ろうかな。
「あぁ、ごめん今日はそういう気分じゃないからまた明日な」
「・・・そういってもう2週間だぞ。新入生の勧誘にホバークラフト改良してるんだから、
お前も少しは手伝えよ。」
実は去年の文化祭でわれらが技術部は、ホバークラフトを自己製作したのである。
それは大変好評だったのだが、実際に動かすと浮いた後の操作方法まで考えが至らず、
燃料がなくなるまで運動場を暴走し続け、各運動部に多大なる迷惑をかけて謝りまくったという
一品であり、現在新入生勧誘に向けて制御可能な改善方法を考えている最中なのである。
ただ、僕も半分幽霊部員なので技術的な知識もなく、せいぜい荷物運びしかできないので
そんな面倒な事誰がするかと思うのです。
「わかった、新人勧誘の時は手伝うよ!アディオス!」
「おい!・・・・・・もう、全く知らんぞ」
伊藤の呼ぶ声を背後で聞きながらカバンを持ち颯爽と教室を出る。
正直部活に行っても雑談で終わりそうなんだがそれでもいいのかね。
まだ、夕焼けには程遠い、お昼時の太陽を浴びながらいつもの地獄坂を歩いて降りる。
上りもきついが実は下りもきつい、特に走って降りるのは厳禁だ。絶対に止まれなくなる。
しかも膝への衝撃も結構きつく、気を抜くと膝が折れそうになる。
誰だこんな場所に高校作ったのは・・・役所か!
一度wikipedhiaで調べてみよう。
そんな事を考えながらつらつらと地獄坂を降りて自宅へと帰る。
自宅の1F店舗は酒屋でもあるが、半分は立ち飲み屋としておつまみ程度を出して飲食店
として営業している。うちの母は酒屋のおかみさん兼立ち飲み屋の看板娘だ。
店舗の横の細道を抜けて裏手の階段を3階まで登る。
あ・・・そうだ。
補給物資も必要だなと、途中の2階で中に入り冷蔵庫の中から麦茶を1本取り出して
3階の自室に移動する。2階も3階も生活空間なのに、一度必ず外に出ないと3階に行けない
つくりの我が家はそれが普通だと思ってたから、
初めて友人を招待した時に驚かれたのを思い出した。
個人的には、色々プライベートが欲しいお年頃なので、3階は自分1人のスペースだという
安心感は結構嬉しい。
但し倉庫の一室なので、1F酒屋営業中は母が突然在庫を取りに無断で上がってくるという
トラップがたまにある。
と、3階の玄関を開けて自分の部屋に入ろうとすると、玄関先に1本のナイフ?
みたいなものと書置きが置いてあった。
んーーーーーー?
不審物を見た時の3か条! 「触るな、踏むな、蹴飛ばすな!」
・・・これを守ると話が進まないな。
まずは書置きをチェック。
あ、おじいちゃんだ
「むー坊へ
じいちゃんがいない時に死にたくなったら使いなさい。
結構痛いので注意。
護身用兼自殺用に使うといいぞ。じいちゃんも結構使った。」
・・・・・why?
意味がわからん。
いや、別に死にたくなるような事いままでないよ?
学校でいじめとかも受けてないし、確かに友人は少ないから学校でぼっちな事は多いけど、
死にたいとまで追い込まれてないよ!
しかも、じいちゃんもよく使ってたって?
ダンピールだからか?よくわからん。
ナイフらしき方を見てみる。
木の柄に収まった刃がちょっと見える。
これ、あれだ。果物ナイフだ。2つ折りの
中央に刃を回転させて引き出す用の凹みがある。
刃を出してみると、、、、おー、まさに果物ナイフ
確かによく切れそうだ。痛いのかな?
何の気なしに刃の先で麦茶を持った逆の手に「つん」と刺してみた。
ビキッ
その瞬間
世界が真っ赤になった。
刺された手が高圧電流を浴びたかのように痺れ、体幹部分までその痺れが一瞬で逆上して
登ってきたかと思うと目の前が真っ赤になり立っていられなくなった。
今、自分が上を向いているのか下を向いているのかわからなくなり、
自分の荒い呼吸音だけが聞える状態で・・・。
ふと気が付くと自分が玄関で倒れている状態に気がついた。
意識を失っていたらしい。壁を背にしてなんとか座って腕時計を見ると、
数分の出来事だったらしい。手にはしっかりとナイフを持っていた。
あぶねー。ナイフ持ったまま倒れるなんて、運が悪かったら倒れた際に自分で「ぐさっ」
ってなって死ぬ奴じゃないか。あ、いいのか自殺用だから。
いやいやいやいや、良くない良くない。じいちゃんこれで僕が死んだらじいちゃんの他殺だからね。
混乱する自分の頭と身体の状態をなんとか落ち着かせて再度ナイフを見る。
毒とか塗ってない・・・・と思う。普通の果物ナイフだよなぁ。
さっきのはなんだったんだろう。
流石にもう一回「つん」は命に関わるので丁重に2つに折り畳んでポケットにしまっておく。
今日の晩御飯にでも母さんに聞いてみよう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そして大事な事に気が付いた。
麦茶が零れて玄関が水びたしになっていた。
上着も少し濡れてる。明日までに乾くかなぁ。
そして青春の大事なファクターである放課後の貴重な半日は濡れた上着の乾燥と
玄関の清掃で暮れていくのであった。