日常1
母様の食事をおいしくいただいて、制服に着替えて出る頃にはもう7時30分。
通学路を歩いていると、同じ制服を着た人が横を通り過ぎていく。
僕が通う学校、私立四ノ宮高校は家から徒歩30分の場所にある風光明媚な高校である。
どこら辺が風光明媚かというと、家から30分間通称“地獄坂”と言われる坂道を延々と
上がり続けないとたどりつけないほど高い場所にある・・・というところから察して欲しい。
学校前の坂は通称「地獄坂」と呼ばれ、アスファルトで舗装された山道のようなその坂は
学生には厳しい部分も多く、今はまだ4月だからいいのだが、夏はアスファルトの照り返しで更に
温度があがり、体力の無い生徒や慣れてない新入生が脱水症状を起こして毎年何人か倒れるらしい。
とはいえ、悪い面ばかりではなく、町の山の手にあるが故に下界の風景はとても美しく、
四季に応じて変化する景色はとでも奇麗だ。
特に夕方、日が沈む直前に下り坂を降りて下校する際の景色はとても奇麗で、
僕はそれだけでこの高校に進学してよかったと思っている。
登下校中たまに車で横を通り過ぎる先生を見かけると殺意がわく事もあるが、
まぁ、それはいいだろう。
「ハァハァ・・・・・」
いつものように20分も上り続ければ息が切れ始める。
周りを見ても友達と談笑しながら登校しているという感じはない。
せいぜい2言、3言の雑談程度だ。
談笑しながら普通に平地を歩くように登校すると間違いなく酸欠で倒れる。
それゆえ登校風景は校門が近付くにつれて静かになり、最後は黙々と歩く、というか登る。
遅刻の常習者は走ってこの坂を登るので、大体1時間目は呼吸が戻らず一人机に突っ伏して
荒い息をついているしかないという状態だ。
校門に近づくと、学生有志の生活委員と生活指導の先生が服装のチェックを行う為に待機している。
生活指導の一貫で、毎日行っているわけではないが服装に乱れがあると指導されて減点1
されるというシステムだ。
減点がいくらか貯まったら職員室呼び出しらしい。
僕はどこにでもいる可もなく不可もない生徒の1人なので、
いつものように先生に会釈だけして校門を通る。
この学校に通って3年になるが、呼び止められた事は一度もない。
坂道にある高校なので校舎も斜め・・・にすると建築物として生活できない環境になるので
海側の校舎には底上げがされてある。
校門は海側にあるわけで、校門から教室までは更にその底上げした部分に設置されている
階段を上って校舎にたどり着き、更に校舎の階段を上って教室にたどり着くという、
登校するだけで今日一日のエネルギーは消費したのではないかという設計になっている。
我ら3年は校舎の1Fに教室があるのでそうでもないが、新入生の1年は校舎の3Fが
教室となるので更に辛い状況になるのが通例だ。
流石に慣れとは恐ろしい物で、毎日通っているとその程度の移動は特に気にもしなくなっている。
うちの卒業生は毎日この階段昇降の訓練を行っているので
基礎体力は他の学校より高いんだろうなぁ。
・・・と、まぁそんな事をつらつらと考えながら階段を上り、職員室を抜けて教室の扉を開く。
大体、母親の教育の賜物で無理やり早起きさせられているので教室に入っても生徒は
まだ1~2名しか登校していない。
窓側の自分の席に着き、腕を枕にして体をうつぶせ一息つく。
ガラス越しに朝日が身体にまとわりつき、黒い制服で更に温められるこの瞬間は至福の時だ。
おじいちゃんに言わせると「それでもヴァンパイアか」とたまに説教されるがほとんど
人間なんだから仕方ない。
「おはよー」「おす」
クラスメイトが何人か登校して雑談を始めているが、僕はそれに気付かず延々この至福の時間に
陶酔していた。
あー・・・・気持ちいいなぁ
ガンッ
いきなり机を蹴られ、唐突に朝の至福の時間は終わりを告げた。
「おはよう、月曜日は厭だなぁ」
「いきなり机を蹴って起こしながら挨拶をするお前が嫌だ」
としぶしぶ顔をあげて、その相手の顔を見た。
友人Aとでもしておこうか、Aは中学校からの友人で技術部所属、電子系は任せろ。
な理系人である。アニメ・ゲームが大好きでオンラインゲームにはまっている。
夏には髪を伸ばして後ろで束ね、冬には丸刈りにするという、それは逆じゃないのかという
ツッコミを入れたくなる特徴を持っている。
革系の服が大好きで学校外で一緒に遊ぶ時は夏でも革ジャンに革ズボン。
スレンダーな体系なのでよく似合うのだが夏はあんまり近づきたくない部類だと思う。
ちなみに今は春なので彼の髪は中途半端に長い。
そんな彼と友人な僕も学校では技術部所属、アニメ・ゲームが好きで
オンラインゲームに嵌らされた同類である。友人Aとはいつもつるんで行動し、
クラスも同じなので彼と遊ぶのが一番多い。
とはいえ部活については、彼は真面目に活動しているが、僕は帰宅部同然であんまり
部活動には参加していない。
友達の少ない僕の中でも更に少ない気の置かない友人である。
ふむ・・・親友Aに格上げしてもいいかもしれないですな。
「いやー、今日の夜に攻城戦があるじゃないか、お前にも参加して欲しくてさー」
「僕に?まだLv40だから行っても死ぬだけだよ、友人Bに頼めよ」
「・・・誰だよ友人Bって」
友人Aこと、伊藤正は怪訝な顔をするので、僕は仕方なく懇切丁寧に説明してやることにした。
「僕の友人A=お前、友人B=木村」
「俺はAかよ、せめて苗字の伊藤からIを取って親友Iにしろよ」
「あれ?そっちだけ?イニシャルトークは問題ないのかよ」
と、まぁ友人と朝からネトゲの濃い会話をしながら授業開始までだべっているのが
毎日の生活である。
ちなみに名前の出てた友人B改め木村篤志は別のクラスの友人で、
今井と同じく中学校からの友人である。
伊藤、木村、そして僕。この3人が仲間。と言ってもいいのだろう。