祝勝会
伯爵邸で開かれた祝勝会は盛大な物であった、一番手柄を立てたのはフリートヘルムであろうというのは誰もが認めるところであり、今回の手柄で前回の汚名返上は完全になされたといってよかった。
矢面に立っていたがために死傷者もそれなりに出たが、規模、戦果などを考えればこれ以上の戦果はまず望めないと言ってよかった。
今後にあやかろうと多数の貴族連中が顔色窺いに来る中で、テオドールはそういった社交辞令に満ち溢れたパーティーにうんざりとしていた。
「ねえ、抜け出してみんなと別室で飲み食いしてちゃダメだよね?」
「分かってるなら我慢しなさい」
隙を見てヒルデガルドに愚痴を言うが、流石に解放してはもらえなかった。こういった席で方々の貴族と交流を持つことは決してマイナスではない事も理解していた、伝手が増える事はいざという時の選択肢が増える事にもつながるのだから、それでも苦手なものは苦手であった。
「参加してればいいこともあるんじゃない?、年増のババァ押し付けられるとか」
言われて思い出したが約3年前に伯爵邸で開かれた祝勝会でユリアーヌスをなし崩し的に押し付けられたのだった、あの時は何がなにやら分からなかったが、今では笑い話になる、そう思うと少しおかしいような悲しいような気分になった。
しかしこれ以上何かを押し付けられるようなことは本心から避けたいと思っていた。今回の軍役で十分手柄を立てた事だし後は領地経営でのんびりとやっていきたいというのが偽らざる本音であった。
「今日の来賓予定にそこまでの大物はいないからまだましでしょ、あと少しなんだから我慢なさいね」
こういう風に社交的な部分を補佐する手際も彼女とユリアーヌスはよく似ていた、彼女が歳をとり、ユリアーヌスくらいの年齢になった時に若い娘に、ババァ呼ばわりされたらどんな反応をしめすのであろうか?そんな事がふと気になったが、遠くから眺める分にはいいが、その場には絶対に居合わせたくない、しかもその若い娘が自分の愛人だったりしたらどんな事になるのか想像するだけで恐ろしい。そんなどうでもいい夢想にふけりながら退屈なパーティーが終わるのを待っていた。
別室で行われた、兵士達の慰労会も盛大なものであった、伯爵家からは戦死者も出たが、それでも生き延びた事を喜び死者を悼むように盛大に行われた。普段は食べられないような香辛料をふんだんに使われた料理、水で割られていないワイン、それらを無制限に飲み食いできる喜びに歓喜していた、料理の内容は貴族側と一緒なのだが、こちらの方ができたてで熱いまま食べられたので美味く食べられていた側面があった、貴族サイドでは社交が中心であり、来賓はまだしも主役であるテオドール達は碌に食事もとれず、愚痴を言いたくなる気持ちも十分に理解できるものであった。
散々飲み食いすると、ヨナタンに連れられて夜の街へ繰り出す事となった、マレーヌに話を付け人数分の手配は済んでいたため、「町に追加で飲みに行く」そんな符丁のもと皆で繰り出して行った。
「あれ?あんた行かなかったのかい?」
参加を辞退したラルスにニヤニヤと笑いながらフリーダが話しかける。
「ああ、十分飲んだからな」
「ふ~ん、仲間を売らないのはいいことだねぇ、婚約成立した連中まで行ったのに行かなかったのは感心だね」
抱き着き耳元で囁くように言う、彼女は戦場で高揚した後の男の行動パターンなど分かっていた、婚約が成立した連中であろうと、今後いくらでも抱ける未来の女房より領主のおごりで美女が抱けるとあればホイホイとついて行くであろう事は容易に想像がついた。だからこそ義理堅いラルスにより好感を持った。
「二カ月近くもご苦労だったよね、外に遊びに行かなかったご褒美込みでたっぷりとね」
耳元で囁く彼女の声に誘われ、二人は足早に寝室へとむかって行った。
好みの問題もあるから若干多めに用意されていた、戦争帰りで昂っており、しかもアルコールまで入っているとばると、ちょっとしたことで流血沙汰まで起き得る、なるべく注意は払っていても案の定モメ出してしまったりしていた。クジによって順番を決める事で皆納得し最初はズムーズにいっていたのだが、だんだんと質が悪くなってくるのは如何ともしがたく、最後の方はかなり選定に苦慮していた、それでも場末の娘よりははるかに上等な部類なのだが、最初の頃に選ばれた娘に比べると聊か見劣りしていた。今夜の引率を命じられていたヨナタンもだいたい予想していたことであったので、酔わないように控えめに飲んだうえで引率し、喧嘩に発展しないように粘り強く仕切っていた。
全員がそれぞれ相手を決め部屋に消えて行くと、マレーヌが一杯のエールを差し出しながら話しかけてきた。
「おつかれ、あんたが仕切ってくれて助かったよ、仕切るのまでが本来の私の仕事だからねぇ、ところであんたはいいの?枯れるような年じゃないだろ?」
「トラブルが起きた時自分が最中でした、では困るからな」
「真面目だねぇ、カイだってもうちょっと融通がきいたよ」
だいたいの関係は聞いていた、レギナントの頃から王都における協力者として情報提供などの面でもかなり役立ってくれている存在、ぞんざいな口ぶりが関連の長さ。深さを連想させた。
「安心おしよ、ここではそんな問題まずないように私が仕切っとくからさ、ここを紹介したのはあんたも息抜きして来いってボウヤの配慮だよ」
少し苦笑いを浮かべつつ、返答する。
「『ボウヤ』はないだろう」
「『ボウヤ』でいいんだよ、こういった所にお忍びで来るお偉いさんはみんなAさん、Bさん、になるんだからさ」
言うと、手元の小さな呼び鈴を小さく振るった、すると奥から3人ほどの女性が出てきた。
「お偉いさん用の隠し玉だよ、どれでもいいから楽しいんでおいき」
確かに先ほどまで紹介されていた女性陣とは格が違った、先ほどまでは普通~美人、という感じであったのに対し、この3人は誰もが認める絶対的な美女、そうとしか形容できなかった。
逡巡はあったが、先ほどのマレーヌが言った、『遊んで来いっていう配慮だよ』という言葉が後押しとなって一人を選ぶと奥へと消えて行った。
彼は知らなかった、こうやって少しづつ弱みを握って行く彼女のやり口を、もっとも何かを直接的に要求するなどはしないが、なんとなく頭が上がらなくなる、そんな力関係が徐々に形成されていってしまう第一歩である事を見抜くには彼は若すぎたといえた。




