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レイヴン戦記  作者: 一弧
第三章 新世代
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王都の休日

 結婚にまつわる式典は続いていたが外国からの来賓も多く、毎日出席するわけでもないため、予定日以外はのんびりとした休日を過ごす事が出来た、もっともこれを機会と捉え、方々に顔つなぎを行うのが本来の地方領主であるのだが、テオドールはそういった事はどうしても苦手であり、ヒルデガルドも不向きであるのが分かり切っている夫に無理に勧めようとは思わなかった。


「ねえ、王都ってどんな感じなのか分かる?」


 唐突に尋ねられて、ヒルデガルドは質問の趣旨が理解できなかった、怪訝な顔をしていると、言葉が足りなかった事に気付き補足を開始した、


「いやね、村からほとんど出たことなくて、王都に来たことはあっても馬車で王城とか伯爵邸とか決められた場所に行くのがほとんどで、お上りさんとして観光した事とかなかったんだよね」


 言われて納得した、確かに彼女にしても、王都を自由に観光した事などなく、案内を頼まれても何が何やら全く分からないくらいであった。


「じゃあ、行ってみましょうか?」


「いいの?」


 行ってみたかったが、なかなか好き放題できる立場でもない事は理解できていたため、遠慮があったが、ヒルデガルドから許可が下りたのでこれ幸いと、王都観光に出かけることとなった、あからさまに貴族と分かる事はトラブルを招きかねないため、それぞれ衣装を用意しての外出となった。

 二人の護衛件案内役となったヨナタンはテオドールの姿を見て「どこからどう見てもお上りさんにの農夫に見えます」と太鼓判を押し、テオドールを苦笑いさせ、ヒルデガルドを爆笑させた。

 一方ヒルデガルドはどうしても貴族令嬢にしか見えず。、妥協点として商家令嬢と侍従二名という設定となったが、どこで聞きつけたのかイゾルデとゲルトラウデも同行を申し出てきた。


 屋敷の門を抜けようとする一行は、門の傍の木に吊るされた男を見て歩みを止めた、


「ああ、あいつが捕まったスリか」


 テオドールの言葉に門番の衛士が答える、


「はっ!見せしめの意味を込めて吊るしております」


 吊るされた男はその会話を聞くと、テオドールがそれなりに立場のある人物である事を察し、しきりに命乞いをしてきた、口には猿轡を嵌められていたため、言葉を発することはできなかったが、目ともがき声で必死のアピールを繰り返した。


「少しかわいそうじゃない?」


「そうよね、そこまで酷い事したわけでもないんだしね」


 テオドールとヒルデガルドの会話を聞き男は色めき立った、『頼む!もうひと押ししてくれ!死にたくない!許してくれ!』心の中で、塞がれた口で、男のアピールは猛烈を極めた。


「スパッとやっちゃえばいいんじゃない?」


「見苦しいしね」


 『え?』その会話を聞き、何を言っているのかが理解できなかった『あれ?助けてくれるんじゃないの?』彼は心の中で問いかけたが回答を得ることはできなかった。元々テオドールにしてもヒルデガルドにしてもこの男の助命をしようとは露ほども考えていなかった、ただ、何日間も苦しめた後で殺すのは流石に少しかわいそうだから、早期に処刑してしまうのがいいのではないか?そんな事を考えていたのである。


「はっ!伯爵様のご命令で、祝賀行事の最中に王都を血で汚すは不吉、よって処刑は延期するとの事でありました!」


 「ああ、なるほど」と皆納得すると、吊るされた男に見向きもすることなく、衛士の「よき一日を!」と言う言葉に送られて町へと繰り出して行った、そんな背中を吊るされた男は恨めし気に見送る事しかできなかった。




 ラルス達アルメ村村民一行も城下町に繰り出していた、城下町は非常に賑やかで、たくさんの出店が出ており、見た事のないような食べ物が売りに出されていたり、大道芸人が芸を披露し観客からの御捻りを頂戴したりしていた。フリーダが案内に加わってからはかなり自由度が増した部分があった、気を付けてはいても物珍しさから注意散漫になってしまう村人達に対し、常に不審な人物に目を光らせている彼女の存在は心強かった。

 田舎者の集団をターゲットと見定めたであろう不審者を発見すると、指や肘で軽くラルスをつつきその後、目線で不審者を知らせる、すると皆が一斉に不審者を睨み付ける、そんな連携が成立していた。流石に自分の存在を感知されてまで固執することはせず、発見された事を悟るや不審者は皆退散していってしまった。旅や雑踏に慣れているとはいえ、彼女の不審者発見能力には皆感心していた、彼女にあまりいい感情を持っていないエルゼさえもその点に関しては高く評価していた。


「このあたりの青空市で手頃な小物を売ってたりするよ、値段も手頃だから故郷の娘さんにいい物もあるかもよ、あとボッタクリもたまにいるから、適正かどうか気になったら言っとくれ」


 少し開けた場所に所狭しと並ぶ青空市はしっかりとした店構えの店より村人達にとっては気楽に見て回れるものであった、なにしろあまりに堂々とした店では気後れしてしまって、入る事すら憚られてしまったのだから。

 ただし、粗悪品が並ぶこともあり、品質が一定しない事も考慮の必要があるため、良し悪しはあるのだが、村人達にとってはこのような雰囲気の方がはるかに合っていた。

 皆が思い思いに買い物を楽しむ中で、フリーダは見逃せないものを発見し、ラルスに合図を送った、ラルスはまたスリであろうかと警戒しながら彼女の視線の先に目をやると、ヒルデガルドの荷物持ちをしているテオドールの姿がそこにはあった。

 一瞬唖然としてしまったが、他の村人達も二人の視線を追い、そこにありえない光景を発見し唖然としてしまっていた、一番驚いていたのはたぶんフリーダとエルゼであっただろう、他の村人達は二人の関係性をある程度理解していたが、フリーダとエルゼの常識では領主貴族と夫人がお忍びで街に出る事はあるかもしれないが、領主が夫人の従者の扮装をして街に出るなどありえないことだったからである。

 二人は生まれも育ちもまったく異なったが、この時はまったく同じことを考えた『あんた何やってんだよ!』と。



 テオドールはヒルデガルドの荷物持ちをしながら街を回るのを楽しんでいた、あちこちで繰り広げられる大道芸、珍しい食べ物、どれも興味深い物だったからである。王都で生まれ育ったイゾルデにしても城下町の祭りに参加したことなどなく、非常に楽しんでいた。はしゃぎすぎている所をヒルデガルドに年齢をからかわれ、17歳と言い張るところまでが最近の一連の流れとなってきていた。

 案内役であるヨナタンにしろ城下町の祭りは珍しいものではなかったが、部屋住みで肩身が狭く自由になる金など碌になかった彼にとって、自由に飲み食いできる環境は非常に楽しい物であった、もちろん不審者に目を光らせることを怠る事はなかったが。もっとも人一倍飲み食いしていたのはゲルトラウデだった、物珍しい食べ物を見ると捨てられた子犬のような目で訴え片っ端から食べて行っていた、『こいつどこまで入るんだろうか?』皆疑問に思ったが、面白がって欲しがるままに食事をさせていた。

 そんな時にテオドールはラルスと目が合ってしまった、唖然とした目でこちらを見ていたラルスであったが、無視するわけにもいかず、オズオズと近寄ると、テオドールに話しかけようとしたが、機先を制するように、テオドールが話しかけた、


「人違いではないですか?私はベージャの小物問屋の隠居でベンと申します」


 つっ込みどころしかなかった、『いつそんな設定作ったんだよ!だいたい隠居って年齢じゃねえだろ!』そこにいる皆が心中で思ったが、あえて、その設定に乗る事とした、


「ああ、人違いでしたね、それでは失礼します」


 ラルスはそれだけ言うと皆を連れてそそくさと移動して行った、「あれって・・・」言いかけたフリーダに対し、「ベンさんという方だそうだ」ラルスは断固として言い張った。

 しかしフリーダにすればいよいよ不可思議に思えてきて、その率直な感想をぶつけてみた、


「なぁ、あんたんとこの領主様って正直もっと酷い方だと思ってたんだよ、噂では死神の化身みたいに言われてるからさ、なんかこう、気に入らない事があるとちょっとした事で部下の首を刎ねるみたいなさ、全然違うんだな」


 そのフリーダの発言を皆笑いながら聞いている、ラルスも笑いながら答える、


「領民を処刑したって話は今のところ0だよ、ちなみに今の人はベンさんだけどね」


 皆はその発言を聞き大笑いを始めた、その発言を聞き彼女はさらに率直な感想を述べた、


「妻の死に涙し、領民を大切にする、しかも戦には滅法強いって物語に登場する名君みたいじゃないか」


 彼女の発言に自分達の領主を褒められて満更でもないといった表情を村人達は見せる中で、ラルスが返答する、


「まぁ、だからこそ御自慢の領主様なのさ、あ、さっきの人はベンさんね」


 彼の発言に皆が爆笑する中で、冷静にやり取りを眺めていたエルゼは余所から『血の結束』と謳われた彼らの強さの一端を垣間見た気がした。

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