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レイヴン戦記  作者: 一弧
第三章 新世代
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道中

 道中は特に問題はなかったが、一人悩みを抱える男がいた、約1年前に従士として採用されたヨナタンだった。

 彼は同時期に採用されたブンターやホレスほどに数字に強いわけではなく、内務の税制調査、収穫予想、適正税率、などについてヒルデガルドの下で順調に働き出した彼らに一歩遅れている自分を自覚していた。剣の腕には自信があり、他2名より軍歴もある自信はあったが、剣ではアストリッドにまるで歯が立たなかった。

 もっとも村で生活を始めて1年、まったく実戦もなく、平和そのものであり、武を生かすことなど無いだけに、自分の存在意義について不安を感じてしまっていた。せっかくの仕官先をお払い箱になってしまったらどうすればいいのか不安でしかたなかったのだ。

 もっともテオドールとしては彼をくびにする気など毛頭なく、実直な人柄を評価すらしていた、カイとも相談していたが、いずれは従士長をカイから継がせるのには最も適任ではないだろうかという意見で一致していた。

 王都までの道中にて途中宿泊した村にて同行の村人と食事を一緒したりするが、元々が武骨な人物だけに微妙な空気になってしまう事が多い、そんな空気を救ったのは、意外にもアラベラであった。


「ヨナタンさんは、王都に長らく住んでいらしたのですよね?どんなところなんですか?」


 王都には初めて行く者も多く、皆が知りたい情報であったが、いささか強面なヨナタンに面と向かって聞くのが憚られていた側面があった、もちろん彼はそんな凶暴な人物ではないので、聞けば普通に答えたのだが、見た目で損をするタイプの典型とも言える人物だった。

 質問に一つ一つ丁寧に回答をするうちに、他の者達も次々に質問をするようになり、次第に場は盛り上がって行った。


「王都に行く目的って、王様の結婚式に参加されるのが目的みたいですけど、お妃様ってどんな人がなるんですか?」


 場が盛り上がってきたところで、アラベラは自分が本当に知りたかった情報に迫る質問を開始した、その質問に対し、ヨナタンは少し考えるようなそぶりを見せると、話始めた、


「我が国も東方、カリンティアの王族と聞いている、全て知っているわけではないが、王族は王族と婚姻関係を結ぶ事が多いと思う、当家のご領主様のようなケースはまれであったのだろうな」


「物語では平民の娘が王子様に見初められて、みたいな話がありますけど、実際はないんですか?」


 身を乗り出すように聞いてくる、アラベラであったが、ヨナタンは少し苦笑いしながら言う、


「実話として聞いた事はないな」

 

 聞いていた他の者は「まぁそんなもんだよな」などと口々に言っていたが、アラベラだけは未だ諦めがつかない様子で食い下がって来た、


「では、王城に勤める侍女と王様の道ならぬ恋みたいなのもないんですか?」


 その質問に対し、ヨナタンは記憶の糸を手繰たぐるように少し考えると、またしてもアラベラの願望を打ち砕くような回答を出した、


「それはあるようだな、ただし王城の侍女はたいてい貴族の令嬢だぞ、例えばイゾルデ様も名門貴族のご令嬢であるように、平民では王城に勤める事はまず叶わんだろうな」


「平民ではまず叶わん、という事は叶うケースもあるんですか?」


「詳しくはわからんが、国を相手に取引を行うような大商人の娘など、そういうケースは聞いた気がするな」


 「全然ダメじゃねぇか」と笑いが起こる、平民は平民でも完全に別世界の住人である。もちろん幾つもの偶然が重なり、平民と王族との婚姻が成立したケースはあったが、ヨナタンはその事実を知らなかった、仮に聞いた事があっても、誇張された噂話であろうと考えてしまっていただろう。もし世間の噂が全て真実であるなら、現在彼が仕えている領主は人の皮を被った悪魔という事になっているのだから。

 今回の目的の一つにヨナタンと村人の距離を縮めるというものもあったが、それに関してはかなり良好な形で実現したと思われた、しかしアラベラの婚活に関しては前途多難な予感しかしなかった。

 しかしコミュニケーションという点で最も重症だったのはやはりアストリッドであろう、皆が楽しそうに話す輪に入る事もなくつまらなそうに食事をしていた、『王都に行って結婚式を見物して帰る、それのどこが楽しいのだろうか?向かう先が戦場であればどんなに心躍ることか』そんな事を考えていた。もし彼女が同時刻に別室で行われていたテオドール達の会議内容を知ったら嬉しさで小躍りしていただろうが。




 宿の一室に集まった、面々は難しい顔をしていた、テオドール、ヒルデガルド、イゾルデ、ゲルトラウデの四人で緊急の会議が開かれていた、


「攻めるとしたらどこだと思う?」


 テオドールが地図を眺めながら、誰となしに聞く、


「南方のガリシではないでしょうか?理由としましては、今回の婚姻でカリンティアからの同時侵攻も見込め、有利に進められることが考えられます」


 皆、面倒なところだと思っていた、自分達の領地からかなり離れた所への出陣要請が出た場合、手間がどれだけかかる事か想像しただけで、頭が痛くなってくる。

 元々は馬車の中で女性陣三人による他愛のない話から発展した話であった、他国から攻めて来る気配はいまのところない、そんな情報が王都のマレーヌ経由で入って来ていた事もあり、旅行に行くような気軽な気分であった。

 そのリラックスムードも手伝ってゲルトラウデが調子に乗って冗談を言い出した、


「いっそ、こちらから他国を攻め取って国盗りと行きましょうか」


 もちろん冗談であった、イゾルデが苦笑いする中でヒルデガルドは表情を消し考え込むような様子をみせた、ゲルトラウデは調子に乗ってまずい事を言ってしまったのだろうかと不安に思ったが、次にヒルデガルドが発した言葉を聞き、イゾルデ共々ギョッとした顔をした、


「こっちから攻めるから従軍しろ、って命令が来る可能性はけっこう高いかもしれないわ、確か国王のフェルディナントは初陣経験すらなく、そろそろ形の上でも軍役を行わないと今後内外に示しがつかなくなる可能性は高いわ」


 その言葉を受け、緊急の会議が夜の宿で開かれる事となったのだが、ため息しかでなかった。


「その予想が杞憂に終わるといいんだけど、悪い予想ってのはけっこう当たるものなんだよね」


 うんざりとした顔で語るテオドールの意見にみな同じようにうんざりとした顔で同意していた。


「あの剣豪様が知ったら飛び上がって喜びそうよね」


 ヒルデガルドのその一言が皆をさらにげんなりとさせた。

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