討伐前夜
「騎士団所属のヴェルナー・フォン・マテウスと申します、このたびの討伐には寄騎として参加させていただきます。どうぞ部下としてご自由にお遣いください」
立派な騎士らしい騎士は謁見を終え伯爵邸に到着するかしないかのうちに訪ねてきた、タイミング的にみても、前々から叙勲に合わせて討伐依頼を行う意図を隠す様子すらないのかと、少し飽きれる感情すら抱いた。
「ああ、準男爵家を継承したテオドールと申します、なにぶん王都近郊の地理など不案内なので、色々とよろしくお願いします」
「はっ!」
この人には裏とかないのかなぁ、実直そうに見えるけどよくわからんねぇ、もし伯爵の読みが当たっていてテストだとしたら、あえて足を引っ張るような人物をつける必要もないし、とりあえずそこまで警戒しなくてもいいかな?等と考えながら、とりあえず軍議の提案を行うことにした、
「では、さっそく軍議を開始したいのですが、よろしいでしょうか?」
「はっ!」
発声と姿勢はいいんだよなぁ・・・と少し猫背気味な自分の姿勢を自覚しているテオは思っていた。
伯爵の執務室を借りて会議を行う事とし、参加者はテオ以下、オルトヴィーン伯爵、カイ、ヴェルナーの4名のみであったヴェルナーとしては、4名のみという人数の少なさに違和感を覚えたが、特に何も言わずに参加していた。
机上に広げられた地図の上で盗賊が根城としている大凡の場所、および予想構成人数等を告げると、テオとカイは少し考え込むように沈黙した、その様子を興味深そうに伯爵は眺めていた、しばらく考え込むように沈黙した後で、テオはおもむろにヴェルナーに尋ねだした、
「三度の討伐失敗についてですが、その際何名くらいで行ったのですか?」
「三度とも70名前後でした、騎士従者合わせての人数です」
「王都から根城までだいたいどのくらいの日数で到着していましたか?」
「5日です」
「最後にもう一度確認しておきますが、盗賊団が根城にしているのは、街道から少し奥まったところにある廃村で、根城として再利用されないように、三度とも更地にしているけれど、いつの間にか根城として復活していて、討伐に赴くと盗賊は逃げ去った後で空振りに終わる、という事で間違いないですか?」
「はい、間違いありません」
少し考えるようなそぶりを見せると、カイの方を向き尋ねた
「2日で行けるかな?」
「1日半でも行けるかと」
「じゃあ、皆に準備開始させといて、今日は朝から待期だったし、もうすぐ村に帰るって伝えてあったから準備は早いでしょ」
「はっ!」
カイが足早に退出すると、伯爵の方を向き恭しく話始めた
「伯爵には是非ご協力いただきたいことがあるのですが」
「ああ、王都に連れてきた手勢だったらいくらでも貸すぞ、足りないようであれば国元から増援を呼び寄びよせてもいいぞ!」
「いえ、手勢は十分ですので、盗賊討伐に行く兵に、戦闘に行く前の景気づけとして盛大な壮行会を開いていただきたいのです、そうですねぇ、5日後くらいに盛大にやっていただくという事でいかがでしょうか?」
伯爵は少し拍子抜けしたように思いながらも了承の意を示すと、いたずらのネタばらしをするように壮行会の注文を付け始めた、聞いていたヴェルナーも伯爵も唖然とはしていたが、そんなこんなで盗賊討伐の幕は上がった。