謁見+クエスト発生
謁見の日取りは決まったがとりあえず宮廷儀礼についてのおさらいをしながら、空いた時間で王都の散策を楽しんだりしていた、完全なお上りさん状態ではあったが山中の村しか知らないテオやルヨにとって何もかもが物珍しいものであった。
謁見は城中の広間にて行われ、王より剣を授けられ忠誠を誓い滞りなく終了する予定であったが、予期せぬ展開というものは悪い方にばかりしばしば起きるように思われる、まさにこの時がそうであった。
叙勲が無事終わったと思った矢先に少年王の傍らに控えていた偉そうな人物が声をかけてきた、
「レイヴン卿、無事叙勲も終わった所で一つ頼みごとがあるのだが、よろしいだろうか?」
慣れない呼び名で呼ばれ、しかもとっとと帰りたいと思っていた所を呼び止められ、しかもしかも疑問形の言葉を発しながら実質的に断れないような事言いやがってと腹の中では毒づきながら、努めて平静を装い返答した。
「なんでございましょうか?」
返事をしながらも、こいつは誰でどういう立場の人間なんだ?といった疑問がわいてきたが、聞くわけにもいかず、とりあえず返答に窮するような事は聞いてくれるな、と祈るだけであった。
「王都の近場で盗賊団が拠点を作り旅人や商人の流通の妨げとなっている、本来は王都に駐在する騎士団で討伐すべき案件なのだが、3度に渡って空振りに終わっている、こと戦術において卿の父君を上回る人物は私の知る限り一人もいなかった、卿の初陣としては物足りないかもしれんが、盗賊征伐引き受けてはくれんだろうか?」
聞いてねぇよと言いたかったが絶対にそんな事言える雰囲気ではないのは理解できた、チラっと一瞬同席していたオルトヴァーン伯爵を見たが困惑の色を顔に浮かべるのみで、断っていいものではなさそうな雰囲気しか感じ取れない、あまり長く沈黙しているわけにもいかず、意を決して、
「お引き受けいたします、できますれば王都近辺の地理に疎いものですから、盗賊の根城の位置を含めもう少し細かな情報をいただきたいのですが」
「ああ、もちろんだ!寄騎として騎士団の者を遣わすので十分そこから情報を得てくれ、吉報を期待しているぞ!」
「では、失礼いたします」
これ以上余計な注文を出されたらたまったもんじゃないと、そそくさと退出した、もしこの時にもう少し注意深く観察していれば、少年王、およびその傍らに控えていた王姉から彼を観察するような視線を感じ取れたかもしれないが、初めての王城での謁見の最中にそこまでの洞察力を発揮するのは無理難題と言えることだろう。
帰りの馬車の中ではさっそく伯爵との相談が始まっていたが、まず興味を引いたのは自分に討伐要請を出した人物が何者であったのか?という点であった。伯爵によれば、将軍位を持つヴァレンティン侯爵で実質的な国のNo1であり、まだ声変わりも終わっていない少年王を傀儡として操っているとの評判もある人物との事であった。その説明を受けるとさらに疑問がわいてきて、思わず口に出てきていた
「う~ん・・・うちみたいな辺境の山中にある貧乏村の小領主潰してもなんも益はないとしか思えないんですけどねぇ・・・」
「たしかに・・・ただ、そなたを潰して後見である私の面子を潰すつもりなのかもとも考えてみたんだが、特に恨みを買った記憶もトラブルを起こした記憶もないのでなぁ・・・」
伯爵はそこまで言うと、チラっと品定めをするような目でテオを見ながら面白いオモチャを見つけた子供のような素振りで語りだした、
「侯爵の言っている事も真実なのかもと、そんな風にも思えたのだがな」
「真実ですか?」
「ああ、奴は言っていただろう『卿の父君以上の人物を知らない』と。その点に関して私も全面的に賛同するところだね」
「はぁ」
「だからね、試してみたくて課題を出したのかもしれないと思っているんだよ」
「う~ん・・・それにしちゃあハードルが高くないですか?騎士団の精鋭が失敗してる任務なんて、無茶振りもいいところかと・・・」
「常識的にはそうなのだが、そなたの父上なら鼻歌まじりにやってのけたような気がするぞ」
たしかに無茶振りもいいところだが、レギナントであれば軽くやってのけたと伯爵は本心から思っており、テオドールがどこまでできるのか、その才を見極める絶好の機会が来たと、内心でほくそ笑んでいたのもこの時点での事実であった。